その1: 揚荷役終了間際にCargo Pumpがトリップ
「お願いだから報告して!」とは逆に外国人船員が自分の失敗を潔く報告した手本となる例を紹介します。私が体験したLNG揚荷役作業中に起こったトラブルです。揚荷役終了間際で10台のCargo Pumpを次々と停止して最後の 1台だけの運転になったとき、電気容量が少なくなったため機関室に連絡してD/G(発電機)を停止しました。
しかし、操作手順ミスによって選択優先遮断(Preferential Trip)が働き、運転中のCargo Pumpがトリップしてしまったというトラブルです。選択優先遮断とは、発電機が容量オーバーになりそうになったときに重要な最小限の機器を残して、他の機器を強制的にトリップさせて発電機運転を維持させる機能です。重要でない機器を止めて容量オーバーを防いで重要機器の運転を守ります。いわゆる「トカゲの尻尾切り」です。
CCR配置のG/EがCargo Pumpが残り1台となりD/Gの負荷が軽すぎるため、早めにD/Gを止めてしまおうと考えました。そこで、機関室に待機していた外国人3/EにD/Gを止めるよう依頼しました。
ところが3/Eは何を勘違いしたのか、D/GからT/Gへ負荷移行せずにそのままD/Gを止めてしまいました。その結果、選択優先遮断が作動し、使用中のCargo PumpがTripしてしまうというトラブルが発生したのです。
このトラブルの直接原因は、3/EがD/Gを停止する手順を間違えたことです。しかし、その背景にある原因はG/Eが荷役マニュアルに従わずにD/Gを停止するよう指示したことです。荷役マニュアルには全Cargo Pumpが停止してからD/Gを停止すると明確に書かれています。今回のような作業ミスを防止するためにマニュアルがあり、また、遵守すれば事故を防止できたはずです。何が何でもマニュアル通りに作業するというマニュアル絶対主義に陥ってはいけませんが、やはりこの場合はマニュアルを守らなかったことに対して言い訳できません。
まさか3/Eが負荷移行せずに負荷のかかっているD/Gを止めるなんて誰が想像するでしょうか。でも思いがけないことで事故が起こる危険性は常に潜んでいるのです。昔、D/Gの2台並列運転から1台を止めるときに、負荷移行した後に止めるD/Gを間違って負荷がかかっているほうのD/Gを止めるという信じられないミスをした日本人機関士がいると聞きます。それぐらい誰でも信じられないようなミスをするのが人間なのです。
しかし、このトラブルで強く述べたいことはここからです。Cargo Pumpトリップ後、C/Oであった私は原因調査のため、急いで機関室へ下りて行って、3/Eに何があったのかを尋ねたところ、その3/Eは間髪を容れずに素直に自分の犯したミスを認めました。その3/Eはインドネシア人だったのですが、このような場合、再三述べているように自分のミスを隠したり、とぼけたりして責任を回避する外国人船員が非常に多いのが現実です。しかし、このときの3/Eは非常に潔かったのです。素直に自分のミスを認めました。
もし、その時に彼が自ら犯した過失を隠されていたら、原因は不明のままです。後日メーカーが訪船調査しても当然のことながら再現性はなく、異常は見つかるはずもありません。結局、原因がわからず不安が残されたまま継続観察となり、いつD/Gの不具合が再発するかとビクビクしながら荷役を続けざるを得なくなります。さすがにこのときは3/Eに「よくぞ正直に報告してくれた。」と感謝の意を伝えました。繰り返しになりますが、外国人船員だけでなく全乗組員がこのように自分のミスを素直に認めて潔い行動を取って欲しいものです。
その2 : 救命艇を吊り下げているフックが外れた
もう一つ、外国人乗組員から正直に報告があった良い例を紹介しましょう。それはガスフリー作業中のことでした。インドネシア人の3/EがCCRに突然やって来て、「チョッサー、救命艇が大変なことになりました。」と告げました。私はC/Oとしてガスフリー作業中であり、この忙しいときに何を言いに来たのかと思いながらよくよく聞いてみると、救命艇を吊り下げているフックが外れたというではありませんか。
航海中になぜ救命艇のフックが外れたのか理解できないまま、救命艇まで行ってみてやっと状況が判りました。3/Eは救命艇エンジンの整備作業を行うためにエンジンカバーを開けました。ところが、そのエンジンカバーに救命艇のQuick Releaseのレバーが固定されていたのです。3/Eはエンジン整備のことで頭が一杯になっていたのでしょう。あるいは、そのレバーの機能を理解していなかったのかも知れません。
エンジンカバーを開けようとして邪魔になっているQuick Releaseレバーを何気なく引っ張り上げたのです。当然、レバーを引けば救命艇のフックは自動的に外れてしまいます。結局、救命艇はラッシングワイヤーだけで保持された状態となっていたのです。状況を理解した私は、直ぐ甲板部に依頼して落下防止対策として救命艇にラッシングワイヤーを取って事なきを得ました。
このときの3/Eも自分が犯したミスを正直に報告してくれました。「よくぞ、報告してくれた!」という気持ちです。もし、この報告がなく、何かの拍子にラッシングワイヤーが切れたり、人為的にワイヤーを外したりすると救命艇が海中へ落下する大事故が発生する可能性もありました。やはり適切で迅速な報告があってこそ、最悪の事態を招くことなくトラブルを収拾することができるのです。部下から確実に報告を得るため、あるいは部下が躊躇せずに上司に報告するためには、普段から船内各部の上司・部下の関係が円滑で雰囲気が良いことが基本となります。
皆さんは文化や価値観が異なる人々と一緒に仕事をしているのだということをついつい忘れてしまって、日本人同士の接し方と同じ態度で外国人船員と仕事をしていませんか? 彼らの物事の捉え方や考え方は私達日本人とは根本的に違うのです。さらに、同じ外国人でもアジア人と欧州人の考え方や価値観は全く異なります。混乗船ではそのことを十分に理解して彼らと仕事をする必要があります。
何度同じことを言っても彼らに通じない、彼らが自分の思っているように仕事をしてくれないとイライラしていませんか? そういう時には一歩引いて冷静になり「自分(日本人)の慣習・価値観・文化の尺度で彼ら(外国人)に伝えようとしていないか?お互いの考え方や価値観が異なっているために上手く伝わらない部分はどんなところか?」という問いかけを自分にしてみて下さい。そこに彼らとの付き合い方のヒントがきっと見つかるはずです。