船学の動画サイトがOPEN!

ウェスは英語でWasteとは言いません

船の作業で何かと重宝されている『ウェス』の話です。

私達日本人乗組員は油のふき取りに使う「ぼろ切れ」を「Waste(ウェス)」と当たり前のように呼んでいます。しかし、実は「ぼろ切れ」を英語で正確に言うと「Waste」ではなく「Rag」です。

英語で「Waste」と言えば、ぼろ布という意味も一部ありますが、本来は「廃棄物」のことで、布だけでなく様々な廃棄物を意味します。英語では「Rag」が「ぼろ切れ」の意味で使用されます。ですから、「廃棄物のぼろ切れ」=「古い布切れ」=「Waste Rag」が正確な英語表現となります。ウェスを正しい英語で言い表すと「Waste Rag」です。

シンガポールやフジャイラ等の外地で船用品を発注するときには注意が必要です。油ふきに使う「Waste」のつもりで「Wiping Waste」とオーダーすると、糸ウェスが納入されることがあります。IMPAカタログでもやはりウェスは「Waste」ではなく、「Rag」です。外地の船用品業者に「Waste」と注文して、糸くずのような糸ウェスが納入された経験があります。布ウェスは「Rag」で注文しなければいけません。

IMPA Code

Wiping Waste / 糸ウェス : IMPA Code: 232901
Wiping Rags / 布ウェス : IMPA Code: 232907

よく言われる話ですが、20、30年前頃のウェスは木綿100%のものが多く、水分をよく吸い取るので使いやすかったのですが、最近は合成繊維のウェスがほとんどで、水分や汚れの吸収が悪く、拭き取り難いことがあります。また、当然のことながら、白色ウェスは普通の色が付いたウェスより高価になります。昔のウェスには完全に裁断されていない衣類も結構入っており、フィリピン人クルーがウェスの中から、使い物になるTシャツをちゃっかり頂いて着ていたなんてこともありました。

さらに付け加えて国際条約であるMARPOL条約上の「Rag」と「Waste」の話を紹介します。

MARPOL条約においては「Oily Rags」と「Oily Waste」を区別して記録する必要があります。「Oily Rags」と呼ばれるゴミの記録は廃棄物記録簿(Garbage Record Book)に記載し、「Oily Waste」と呼ばれるゴミの記録は油記録簿(Oil Record Book)へ記載する必要があります。ここでも「Waste」とは広義の意味の廃棄物であり「Oily Waste」と言えば廃油に代表される「油分を含んだ廃棄物」です。「Rag」は狭義のぼろ切れという意味に用いられており、「Oily Rags」と言えば「油分を含んだぼろ切れ」を意味します。

船で油ウェスを処理した場合、英文でOily Ragsと書くと廃棄物記録簿と油記録簿の両方に記載が必要となり、混乱を招きます。そこで、混乱を防ぐために、船上では油分を含んだぼろ切れ等のゴミをすべて「Oily Waste」とし、すべて油記録簿へ記載することとし、廃棄物記録簿へは一切記載しません。規則では用語の解釈が非常に重要です。多くの規則では、その最初のページに当該規則で用いられる用語の定義が規定されているので、規則を読むときは、用語の定義を正しく理解してから規則の内容を見なければいけません。

この記事が役に立ったら、お気に入りに登録できます。
お気に入り記事はマイページから確認できます。