『航海灯』の話をいくつか。
船橋で航海灯の警報が鳴った場合、大方はランプ切れが原因ですが、それ以外にはヒューズ切れの場合がときどきあります。従って、ランプを交換してもランプが点灯しない場合は、ヒューズ切れを疑って下さい。ヒューズの点検もせずに機関部に修理依頼するようでは航海士失格です。航海士はテスターの使用方法ぐらいは理解して、機器の電圧や抵抗を測定する技術を身につけておくべきです。
昔の航海士の多くは、近代化船で反対職の限定免除を取得するために機関関係の各機器の基本的な原理や構造の勉強をしました。私自信も近代化船で実際に反対職(機関部)の経験がありますが、今となっては、その経験が少しは役立っています。日本の近代化船政策は大失敗でしたが、近代化船の運航士(Watch Officer)として反対職の仕事を覚え、機関システムを少しは理解できたことは、近代化船教育が航海士にもたらした数少ないメリットの一つです。
航海灯のランプに60Wと40Wの2種類があることを皆さんはもちろん知っていると思います。しかし、意外にもこのことを知らない外国人航海士が多くいます。さらに舷灯が60Wであることも知りません。航海灯が切れて交換するときに、私は必ず航海士に確認します。マスト灯、舷灯は60W、船尾灯は40Wであると。
規則上の到達距離はマスト灯が6マイル以上、舷灯及び船尾灯が3マイル以上となっています。従ってマスト灯が60Wで船尾灯が40Wなのはわかりますが、舷灯は40Wでなく60Wです。舷灯も到達距離に比例するならば40Wのランプで良さそうですが、紅・緑色は光度が小さく到達距離が短いため、60Wを使用します。紅色ガラスや緑色ガラスは減衰率が高いために60Wのランプが必要なのです。これは意外と盲点かも知れません。
ちなみに航海灯のソケットには2種類のタイプがあります。ソケットが「ねじ込み式(スクリュー型:Screw Base)」になっているものと「差し込み式(銃剣型:Bayonet Base)」になっているものです。私達日本人はよく「エジソン型」、「スワン型」といいます。
航海灯と言えば、混乗船になってからは昼間も航海灯の電源を切らずに入れっ放しの船が多くなりました。昔の日本人全乗船では、夜明けとともに日本人のQ/Mが航海灯の電源を切り、日没前に電源を入れるのが日課となっていました。しかし、最近の混乗船では航海灯の電源を切らない船が多いようです。たまに停泊中、岸壁に着いていても航海灯を消していない船があります。それでもかまいません。航海灯の点灯を忘れるぐらいなら、最初から電源を切らないで入れっ放しにしておいたほうが賢明です。日本人のように与えられた作業、指示された仕事を確実に行う外国人の船員は少ないと思っておいたほうが無難でしょう。
ところで、航海灯の警報装置の作動テストを実施したことがありますか? 毎日、航海灯のパネルにあるテストボタンを押して警報が鳴るのを確認しているでしょうが、テストはそれだけではありません。年次検査でよく、検査員から「航海灯のヒューズテストをして下さい。」と言われます。何のテストかというと、航海灯の配電パネルについているヒューズを抜くのです。
そうすれば、電路の断線と同じ状態になって警報が鳴るはずです。これによって航海灯警報装置の健全性を確認できるのです。どの船もヒューズ抜きが近くに置いているはずです。パネルのアラームテストとヒューズを抜いて実施するテストでは意味が異なることを理解しましょう。この航海灯のヒューズテストは航海士の常識です。