阪口泰弘
視認可能距離
皆さんは相手船や水平線の視認可能な最大距離を意識して当直していますか?当直している船橋から視認できる水平線までの距離はせいぜい15マイル程度です。学校や練習船で習ったと思いますが、観測者の高さや相手船の高さによって、視認距離が変化します。式で表すと、\( 2.08\times \left(\sqrt {H}+\sqrt {h}\right) \) マイル。私達が立っている船橋の高さが海面から約40mですから、数式で導き出される水平線までの距離は13マイル程度です。
小さな漁船を視認できるのは、いくら視界が良くても15マイル程度。大型船の場合は相手のハウスや煙突が見え始めるのが最大約30マイル程度ということになります。もちろん、海上では視界が良くない場合も多く、実際の視認距離は計算上の視認距離より大幅に減少します。自船が船速15ノットの場合、1時間後には自分で今見ている水平線付近に自船が到達します。このような気象・海象条件の変化による視認可能な距離を感覚的につかんで置くことも航海当直にとって必要なことです。
避航距離
他船を避けるときの相手船との「最接近距離(CPA: Closest Point of Approach)」の話です。皆さんは相手船までの最接近距離をそのときどきの状況によって使い分けていますか。この間、ある若い3/Oが同航船と反航船の間を航行するときの操船を見ていました。両船間の距離が1.2マイルあったので、同航船との距離0.6マイル、反航船との距離0.6マイルと丁度中央を航行するように針路を調整しながら航行していました。その3/Oはどんな状況でも2船間の真ん中を航行するのが最も安全と考えているようでした。
私はその3/Oに他船との見合い関係(同航・反航・横切り)の違い、船の種類・大きさ・速力によって衝突リスクの大きさが異なるので、当然リスクに比例した重み付けを行って避航すべきであると説明しました。例えば、同航船との距離を0.5マイル、反航船との距離を0.7マイルと重み付けをすべきだったはずです。
もちろん、Master’s Standing Orderで指示されている最接近距離以上に余裕を持って避航する必要があり、十分な距離を保てるならばリスクに重み付けは必要ありません。しかし、十分に余裕ある距離を確保できないときは、そのリスクによって航過距離を調整すべきです。どれだけ重み付けをすれば良いかという正解は見つからないかも知れませんが、同航船よりも反航船の方がリスクが高いのは明らかです。
例えば、小さな島と反航船の間を航行するとき、浅瀬等の制約がないならば、若干島寄りに航行したほうが安全な場合もあれば、島影から突然船が現れることに備えて島から離れて航行したほうが安全な場合もあります。言いたいことは、相手船に対するPotential Riskの重みを考慮して避航距離の大小を決定して避航操船を行うことが必要です。
MCR航行
MCR(Maximum Continuous Rating or Revolution)又はMCO(Maximum Controllable Output)と呼び方は様々ですが、要は主機を連続で使用できる最大出力又は最大回転数です。このMCRに設定して18、19ノットの高速で航行中の大舵は要注意です。むやみにハードの舵をきることは極力避けましょう。回頭角速度が大きくなり船体抵抗により主機に急激な負荷がかかります。しかも、コンテナ船や自動車船のようにGMが小さい船では、過大傾斜による荷崩れ等貨物にまで被害を及ぼす可能性があり、非常に危険です。もちろん、衝突や乗揚げ回避のために危急的速やかに避航・変針する必要がある場合は大舵も仕方ありません。