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当直交代後の15分間は、魔の時間

絶対に起こしてはならない『衝突事故』の話です。

以前発生した衝突事故の中で特に有名なものは、2008年(平成20年)、最新イージス自衛艦「あたご」と漁船の衝突事故です。夜が明けていない早朝4時10分頃、野島崎沖で漁船の左舷正横にイージス艦が衝突しました。当時、相手船を右前方に見ていたイージス艦の方に避航義務がありました。


参考
護衛艦あたご漁船清徳丸衝突事件国土交通省 海難審判所

当時、イージス艦の船橋には10名以上の当直者がおり、前直者から引き継いだばかりでした。昔から当直交代後の15分間を「魔の時間」と呼び、事故発生確率が高いと言われています。交代したばかりの当直者は周囲の状況把握が不十分なまま操船を行うこととなり、避航動作がどうしても遅れてしまうのです。

自衛艦なので両舷ウィングに見張り専門の当直者が配置されており、レーダー監視専門の要員もいました。ですから一般商船よりもかなり早い段階で詳細な他船情報が得られたはずです。しかし、残念ながら衝突事故は起こってしまいました。イージス艦は建造費が1,500億円もする最新兵器システムを搭載した艦で200個以上の目標を同時追跡でき、20個以上の目標を同時攻撃できる恐ろしい能力を備えた最新鋭艦です。そんなすごい自衛艦にも基本中の基本である避航操船の盲点が潜んでいたのです。

昔から「航海当直で最も大切な業務は見張り」と言われています。当時もウィングの見張り員は右舷から横切る漁船を実際に視認していたのですが、漁船が避けるだろうとの思い込みもあり、この情報を船橋内にいる操船者へ適切に伝えておらず、操船者の適切な判断・行動が遂行されなかったのです。まさに「BRM」が機能しなかった典型的な例です。折角の見張りで得られた情報も共有されなければ何の意味もありません。漁船の存在・動向を全員で共有して初めて、情報が価値あるものとなるのです。

よく知られたことですが、避航操船におけるBRMが効果的に機能するポイントは以下の通りになっています。

  1. 適切な航行計画の立案
    船長・航海士は避航開始時期、相手船距離、No Go Area等基本的事項を他の当直者に的確に指示する。そうすることにより当直者のミッションが明確になり、全員が動きやすくなる。
  2. 正しい状況認識
    当直者全員が同じ情報を共有し、同じ認識を持つ。そうすることによりヒューマンエラーの連鎖を断ち切ることが可能となる。
  3. 操船意図の開示と理解
    船長・航海士は自分の操船の意図を他の当直者にはっきりと伝える。そうすることにより周囲の者が船長・航海士に助言したり、当直者自身でチェックすべき対象が明確になる。
  4. 船橋内の良好なコミュニケーション
    以心伝心では駄目、わかっているだろうは駄目、普段から他の当直者が船長・航海士に報告し易い環境を作る。そうすることによって報告をたくさんしてもらうことにより、船長・航海士自身の操船に余裕が生まれて安全性が高まる。
MEMO

避航船は英語で「Give Way Vessel」、保持船は「Stand On Vessel」です。

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