日本国民が自らの手で守るべき『領海』の話です。
日本国の所有する財産はもちろん領空、領土、そして領海です。皆さんも「無害通航権」という言葉を学校で習ったと思います。領土や領空は他国の軍隊や戦闘機がその設定された範囲を無断で越えて進入すると不法侵略・領空侵犯となり外交問題へと発展する大事件です。航空機には無害通航権は一般には認められていません。他国の承諾なしに勝手に他国の領空を飛行してはいけません。では領空とはどの高さまでが領空なのでしょうか?規則では垂直範囲を特に規定していませんが、一般的には人工衛星の最低軌道以下が領空の限界とされているそうです。
一方、海上を航行する外航商船の場合はどうでしょうか?各国の海の領域はほとんどが12マイルで設定されており、さらにその外側に12マイルの接続水域を設定しています。各国はこれらの領海や接続水域内での関税、出入国管理違反を取り締まる権利を有しているのです。
では、他国の領海12マイル以内を航行すると問題になるでしょうか?例えばフィリピン、インドネシア等群島国家の島々の間を航行するときは、沿岸から12マイル以内を航行せざるを得ない場合があります。皆さんの船は通過するたびに沿岸国の許可を得ているでしょうか?もちろん許可を得ていませんし、許可を得る必要もありません。それは各国の船が海洋を航行する特殊性を考慮し、海洋条約に従って航行する外国商船は他国の沿岸を航行する権利を有しており、要求されない限り当該国の許可がなくても航行することができます。皆さんも「今は無害通航権を行使して他国の沿岸を航行しているのだ。」という意識を持って他国の領海を航行して下さい。
ところで、無害通航権についての話をもう一つ。日本人船長が乗船する外国籍船の貨物船(全長約150m)が荒天を避けるために日本の領海内を航行していました。全長150mの船では洋上の大きなうねりや強風に遭遇すると進路によってはローリングやピッチングが激しくなり、Slammingで船を壊してしまう恐れさえあります。そのためスケジュールに余裕のある場合には、船体に受ける風や波・うねりの方向が最適になるよう進路を調整しながら航行せざるを得ません。船長の心労は増すばかりです。
問題となる話はここからです。この船が大時化に遭遇し、日本沿岸(12海里)以内の海面が比較的静かな海域をジグザグと東西南北へ行ったり来たりして荒波が収まるまで耐えていました。ところが海上保安部がこの航行方法を不審・疑問に思ったのです。しかも、外国籍船であったため、その海上保安部は船に直接VHFや電話でコンタクトせずにその船の管理会社に問合せてきました。
すべての外国籍船は無害通航権を有しているので、港湾へでも入域しない限り、日本沿岸を航行しても何も問題ないと思うかも知れませんが、その通航方法に問題があるのです。規則によると通航方法は「継続的かつ迅速」でなければいけません。荒天や海難を避ける等やむを得ない場合以外は領海内での停留や錨泊は禁止されていることはもちろんのこと、さらにその航行は継続的かつ迅速に航行しなければいけません。
従って、外国籍船が日本領海内を行ったり来たりShuttlingして仕向け港へ向かわない航行は許されないのです。海上保安庁は日本の領海の安全を守る立場にあります。日本の領海を航行する外国籍船の動静は気になるところでしょう。しかも日本人の船長が乗船していることは把握できていないかも知れません。やむを得ない状況によりどうしても領海でShuttling、Anchoring、Driftingする場合は、海上保安庁に無用な疑問を抱かれる前にVHF等で船のおかれた状況や航行予定について事前に通報して、領海内をジグザク航行する許可をもらえば良いのです。要は関係各所へ根回しが必要であるということです。
参考
国連海洋法条約と海域分類外務省: わかる!国際情勢 – 海の法秩序と国際海洋法裁判所