『到着予想時刻(ETA)にかかわるトラブル』の話です。
私が3/Oとして乗船していた自動車船での出来事です。その自動車船はカリブ海航路に就航しており、入出港が多くて非常に忙しい船でした。とある港を出港し、次の港までは数日の航海でした。船長は2/Oに次の港のETAを計算するよう指示し、2/Oが計算したETAをそのまま次の港の代理店へ連絡しました。
しばらくして、船長がもう一度確認のため自分で計算してみるとETAが丸一日近く早くなります。300マイル(約1日航海分)違っていたのです。2/Oがなぜか距離を誤って入力し、計算間違いをしていました。このときは早く気づいて代理店へ訂正したので、問題になりませんでしたが、もし誤りに気づかずに入港、荷役作業関連の手配がかかっていたら大問題となっていたはずです。
そんな失敗を目の前で見ているので、「ひょっとしてこのETA計算は間違っているのでは?」という気持ちがいつも私の心のどこかにあります。そのため時々自分でデバイダーを手に取り海図上の距離を測り、ETAが間違っていないか確認する習慣が身につきました。このように他人の失敗をたくさん見て、それらを自分の教訓にすれば良いでしょう。まさに「人の振り見て、我が振り直せ」です。
話がそれますが、ときどきデバイダーが緩くなって非常に使い難くなっているときがあります。デバイダーは航海士の大切な商売道具です。常に最良な状態にしておく必要があります。デバイダーが緩くなっているときは、船長に指示される前にデバイダーのネジを回して適度な固さに調整して下さい。
さて、間違いと言えば、こんな入力間違いがありました。あるLNG船のCCRのモニターがタッチパネル方式になっており、画面をペンで触って値を入力してカーゴバルブの開度を調整します。あるとき、70%と入力したところ、カーゴポンプがトリップしてしまいました。一瞬びっくりしましたが、原因が直ぐわかったので慌てることはありませんでした。70%と入力すべきところを7%と入力してしまったのです。“0”をペンで押さえたつもりが画面は認識していなかったのです。「70」と入力したつもりが、「7」しか入力できていなかったのです。このようにデジタル入力の操作は要注意です。このときの失敗を教訓に再発防止策として、とんでもなく見当はずれの値は入力できないように入力可能範囲を設定しました。
話は戻りますが、入港数日前となると船長はETA調整に神経質になるのは当然です。常に現在のRequired Speedが何ノットか、今後の天候はどう変化するか、これから通過する海域の潮流はどちらに流れているか、これから何ノット、何回転で走ろうかと悩みどころです。各航海士はパソコンで毎時の位置を入力し、平均速力やReq.Speedを記録しています。
前直のReq.Speedが14.0ノットであったにもかかわらず、急に15.5ノットになっても平気で記録している航海士がときどきいます。航海士は船長ほどReq.Speedを気にしていないことは理解できますが、1時間でReq.Speedが1ノット以上も変わるなんてことはあり得ません。ルーティーン化している作業でも数字の変化に注意して、おかしいと気づかなければいけません。
航海当直だけではありません、荷役当直でもそうですが、毎時の記録で突然あり得ない数値になってもおかしいと気づかずに平気で記録している航海士を見つけると、何で気がつかないのか、何も考えずに当直しているのかと船長の信頼が一気に低下してしまいます。作業に余裕がないのでしょうか、前後の数値との差・変化を確認しないのでしょうか。ベテラン航海士になるほど、この種のミスが少なくなります。皆さんも記録値の異常な増減には注意してください。