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外国船に対し自国船より明かに厳しい検査がPSCです

何の前触れもなく、突然、検査員が乗船してくると、船長以下乗組員に張り詰めた空気が漂う、『立ち入り検査』の話です。

PSC (Port State Control) とは、自国へ入港する外国船舶(外国籍船)が国際条約の一定基準を満たしているかどうかを確認するために実施する立ち入り検査です。ここでポイントとなるのは自国の船ではなく、外国の船が検査対象です。つまり自国以外の船籍の船を取り締まる検査がPSCです。自国の船と外国の船に明らかに差を付けているのです。

アメリカ沿岸警備隊 (USCG : United States Coast Guard) やオーストラリアのアムサ (AMSA : Australian Maritime Safety Authority) は外国船を厳しく取り締まることで特に有名な組織です。自国の安全を守る為には外国船に対して一切妥協はしないという姿勢です。日本でも国土交通省所属のPSC専門の「外国船舶監督官」という検査員を全国港湾に配置し、かなり厳しいPSCを実施しています。

PSCでは基準を満たしていない船舶に対して、是正するまで出港停止を命じる等、厳しい処置をとることが許されています。実際に多くの外国船舶がPSCにより不具合を指摘され、停船や出港遅延となっています。世界の外航商船の多くが便宜置籍船 (FOC船) となっていますが、残念ながら国際条約に定められた要件を満足することができないFOC船、いわゆる「サブスタンダード船」が多いことは紛れもない事実です。そのため自国を守る目的でPSCが必要となるのです。

自国の人命や財産の安全を確保することに主眼を置き、自国の港湾や沿岸海域の安全を脅かす可能性のある商船の入港・航行を規制・拒否するための検査がPSCです。「我が国には危険な船は入港させない。不具合を見つけたら、改善してからでないと出港させない!」とかなり強引ですが、PSCは自国を防衛する権利に基づいた正当な検査です。

USCGは外国籍船に対する検査がとても厳しいので有名です。私もある船で米国に入港したことがありますが、入港前に先ず沖に投錨を要請されました。錨地で不審者・不審物がないことを確認するのです。港外の錨地で待機しているとUSCGの灰色の小型艇が近寄ってきたと思う間もなく、小型艇の船尾外板がバタンと開いて、小型ゴムボートが素早く船外に飛び出して本船へ高速で向かってきました。ゴムボートには若いUSCG担当官が6名乗船していました。

そして、保安官のような制服を着た担当官の指示により、乗組員全員が甲板上に並ばされ、全員のパスポートチェックが行われました。そうしている間に別の数名は船内サーチと称して居住区や機関室に不審者・不審物がないかをチェックしました。彼らの雰囲気は私達にテロリストの疑いを持っているような高圧的・威圧的な態度でした。まるで映画の世界に入り込んだようです。強権的で、妥協を許さないなあという印象を持ったことを今でも忘れません。逆に言えばそれぐらいしなければ、米国の安全は維持できないのかも知れません。

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