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風を背中に受けて左手の前方30度方向にあるもの

巨大船の航行にさえ多大な影響を与える『台風』の話です。

台風の右半円が「危険半円」と呼ばれる理由は、右半円は左半円より強い風が吹くとともに、波が台風と同じ方向へ進行して吹送距離が長くなるため、高い波の海域が右半円に偏るからです。台風を避けるときは、台風の中心から200マイル以上は離し、可能であれば左半円側を航行するのが基本です。

もちろん台風の勢力範囲の大きさ、風・波の方向と本船進路の相対関係により、台風の右半円側を航行することもあります。台風の規模にもよりますが、勢力の強い台風であれば300マイル以上離しての航行が理想で、台風の影響を最小限にできる安全な距離です。最近も超巨大な台風を避けるために大きく迂回して台風からの距離を350マイルに保ちましたが、4m以上の大きなうねりに長さ280m以上もある本船が翻弄されました。超巨大な台風の場合は300マイルでも足らないということです。

温帯低気圧と熱帯低気圧の相違点は?文字通り発生場所が温帯地域か熱帯地域かで異なります。さらに温帯低気圧が前線を伴うのに対して熱帯手気圧は前線がありません。では、「熱帯低気圧」の分類・定義について知っていますか?結構、勘違いしている人が多いはずです。「熱帯低気圧」は中心気圧の大小によって分類しているのではなく、域内の最大風速(10分間の平均風速の最大値)によって区別されています。

日本では最大風速が34ノット以上(風力8以上)の場合に「台風(Typhoon)」と呼びます。理由は34ノット以上の風速になると被害が格段に大きくなるからです。英語では風力7以下の熱帯低気圧を「Tropical Depression」、風力8、9を「Tropical Storm」、風力10、11を「Severe Tropical Storm」、風力12以上を「Typhoon」と定義しています。

船長は台風の予想進路と自船位置の関係からどのように避航するか、どの方向へ針路を向けるかを決断するのですが、船長は常に孤独です。ですから、航海士は船長が決断のきっかけとなるような適切な助言を期待されています。あまり出しゃばりすぎると逆効果ですが、船長は部下のアドバイスを待っています。台風に限らず、若手航海士は船長や一等航海士が現在、何を懸念しているのか、何について悩んでいるのか、何を気にしているのかを常に把握していなければいけません。そして、適切なタイミングで適切な助言ができてこそ「できる航海士」です。

低気圧や台風が本船から見て現在どの方向に位置するかを簡単に知る方法を知っていますか?「バイス・バロット(Buys Ballot’s)の法則」です。気象学の授業で習ったと思います。図のように北半球では風を背中から受けたときに左手の前方30度方向に低気圧が存在します。

南半球では低気圧の風向が逆まわりですから、当然、風を背中に受けて右手前方30度方向に低気圧があることになります。これは非常に役に立つ法則です。荒天のとき、私はいつも船橋で今後の風の変化を考えるときに左手をあげてバイス・バロットの法則に基づいて風向変化を予測しています。

コリオリの力の影響で南半球では渦が北半球とは逆に右巻きになるということを学校で学びました。若い頃、豪州航路の船に乗船中、赤道を越えて南半球に入ったとき、部屋のベーシンに水を溜め、栓を抜いて水面にできる渦を観察しましたが、期待したような右巻きの渦ができませんでした。実験室で理想状態でも作らない限り、理論通りの南半球の渦を体感できないようです。

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