非常対応 – 船のエレベーター編

本題の前に、いろいろな座席に優先順位があることは日本の社会人の一般常識です。座席やエレベーター内での所作の常識を知らないようでは、「船員は一般常識がない。」と言われても仕方ありません。例えば、エレベーターを利用するとき、通常は目上の人が先に乗るのが常識です。しかし、大勢の人がエレベーターに乗るときには自分が先に乗って、行き先階のボタンを押すと同時にドアー開ボタンを押して、先輩やお客さんが乗り込むのを待ちます。そして、エレベーターを降りるときはドアー開ボタンを押して先輩やお客さんが全員降りるのを待ち、最後に自分が降ります。このような動作が自然とできるようになることが社会人としての第一歩かも知れません。ちなみに会社のエレベーター内では不要な私語は遠慮しましょう。エレベーターにどんな立場の来客が乗っているか判りません。些細な会話でも顧客に対して問題発言となる可能性は常にあります。これが会社エレベーター内がやけに静かな空間となっている理由です。

さて本題です。エレベーターの非常停止ボタンを何気なく使用していませんか?非常用停止装置はその名の通り非常時のみに使用するもので、無闇に使用するものではありません。エレベーターが動き出し、途中で違う階で降りたくなって非常停止ボタンを押して、一旦エレベーターを止めて違う階のボタンを押すことは厳禁です。非常時以外で停止ボタンを押して良いのはパイロット下船時に船橋でエレベーターを待たせる場合のみです。その他では整備作業時以外に気軽な気持ちで非常停止ボタンを押してはいけません。エレベーターの赤いボタンは非常時用です。

昔、ある船でエレベーターがトラブルで停止し、中に乗組員が閉じ込められるという事態が発生しました。当然、閉じ込められた乗組員はElevator Callで助けを求めました。しかし、誰の返事も助けもありません。通常エレベーターには非常用電話があり、その電話で誰かと連絡が取れて助けを求めることができます。しかし、その船には押しボタン式の呼び出し装置しかありませんでした。しかも、ボタンを押している時間だけしかアラーム音が鳴らないので、誰かが異常に気付くまで押し続ける必要があります。電話ならば受話器を上げている間、ずっと呼び出し音が鳴っていますが、押しボタンでは押し続けなければ、アラーム音を聞いた人には何のアラームが鳴ったか理解できません。しかも、その船ではアラームが鳴る場所が事務室だったのです。当時、事務室には誰もおらず、しかも短いアラーム音では、誰も気が付くはずがありません。

当然のことですが、エレベーター中に閉じ込められた乗組員は気が動転しており、冷静な判断ができるはずもありません。何度ボタンを押しても誰も助けに来ません。しかたなく、閉じ込められた乗組員は天井のハッチを開けて脱出しました。天井ハッチを開けるとインターロックが働き、エレベーターは動きませんが、もし万一脱出中にエレベーターが突然動き出せば、挟まれ事故が発生する恐れがあるという非常に危険な状況でした。安易に天井ハッチからの脱出を試みないことです。そして、非常ボタンは一度押せば、解除するまで鳴り続けるようなボタンでなければ、さらにアラームが鳴る場所に人が常駐していなければ役に立たないということもわかりました。このように船内にはまだまだ実際の事象が発生すると役に立たない装置や手順があるかも知れません。そういう観点で日頃から装置や手順を見る目も必要です。「聞くとやるとは大違い」の精神です。

エレベーターと言えば、食料用のエレベーターであるダムウェーター(Dumbwaiter)を装備している一般商船は少ないと思います。以前乗船した船にダムウェーターがあり、懐かしい気がしました。日本語で「給仕用エレベーター」です。レストランの1階で調理した料理を2階へ人の手で運ぶのは大変です。そのため大きなレストランではダムウェーターを利用しているところもあります。客船では当たり前のようにダムウェーターが装備されているのかも知れません。一般商船ではUpper DeckにChamberがある場合にDumbwaiterを装備していることがあります。Dumbwaiterがあれば、Upper DeckのChamberやProvision StoreからA Deckのギャレーまでの食材の移動が非常に楽になります。

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