『火傷』の話です。
タンカーの入渠前、甲板部の作業中に痛ましい人身災害が発生しました。タンカーでガスフリー作業がやっと終了し、明日にはドックに入渠するというときでした。ポンプマンが自分の担当機器であるストリッパーポンプのストレーナーを掃除するためにポンプルーム内へ降りて行きました。しばらくして、別の乗組員があわててポンプルームから駆け上がってきて、ポンプマンが火傷したことを告げました。ポンプルームへ降りてみるとポンプマンは下半身に熱水を浴びて大火傷を負っており、その痛さのためか体が痙攣し、震えていました。
火傷の原因はポンプマンがストレーナー上部カバーのボルトを緩めたところ、内部が蒸気によって非常に高温高圧になっていたために、突然、熱水がカバーの隙間から噴出して下半身に火傷を負ったのです。通常はストレーナー内に入っている加熱蒸気ラインの元バルブを閉めて、十分に圧力を抜いてからカバーを開放するのですが、元バルブを閉め忘れ、圧力の有無を確認せずにストレーナーカバーを開けてしまったのです。
熱水が噴出するとは予想していなかったため、ポンプマンはストレーナーカバーの真横に立ってボルトを緩め始めたので、まともに熱水を下半身に浴びてしまいました。熱水が噴出しても体にかからないようストレーナーカバーの上に乗ったままボルトを緩めていれば、火傷をすることはありませんでした。(エアー抜きが付いているなら、オープンして残圧をなくすべきでした。)
事故発生後、すぐに数人でポンプマンを抱えてポンプルームから搬出しました。そして火傷の応急処置として長時間冷水で冷やし、チンク油を塗り、抗生物質と鎮痛剤を飲ませ、安静にさせました。幸い翌日にはシンガポール沖に到着し、直ぐに下船して病院で手当することができたため、快方に向かい、無事退院できましたが、災害の危険は思わぬところに潜んでいます。ガスフリー作業もほぼ終了となり、皆が一息ついているときに、この悲惨な人身災害は発生したのです。
直接の原因は蒸気弁の閉め忘れです。しかし、残圧や高温の可能性があるパイプフランジやストレーナーカバーを開放する場合は、自分の作業位置に十分注意するのは常識です。船では同種の事故が繰り返し発生しています。皆さんもパイプやフランジを緩めるときは、常に内部の圧力・温度がどうなっているかを確認し、作業位置にも注意するよう心掛けて下さい。特に油による火傷は重い症状になると言います。100度以上になっている油を体に浴びると熱水よりも大火傷となります。稀に機関室で油圧配管からの熱い油を浴びて大火傷をする機関部員がいますが、高温の油圧配管には本当に要注意です。
ちなみに、火傷の「9の法則」を知っていますか? 火傷の場合、その火傷が重症かどうかを判断するポイントは「広さ」と「深さ」です。火傷した患部の広さを推定するときに目安となるのが「9の法則」です。
参考
熱傷面積(%BSA)|知っておきたい臨床で使う指標看護roo!
火傷面積が50%を超えると生命が危険となります。また、深さの表現として深度をⅠからⅢの3段階に分類しています。簡単に説明すると、深度Ⅰが水泡ができずに赤くなる症状、深度Ⅱが水泡ができる症状、深度Ⅲが白くなったり黒こげになる症状です。
聞いた話ですが、過去に甲板蒸気の修理のため、蒸気元弁を閉めてパイプを外したところ、残圧により蒸気が一気に噴出し、作業員がまともに蒸気を浴びて死亡するという痛ましい事故が発生したことがあるそうです。蒸気元弁を閉めれば直ぐに蒸気が止まると思いがちですが、油断は禁物です。時間的余裕があるならば、冷えて完全に蒸気残圧が無くなるのを待ってから、蒸気ラインの修理作業をするようにして下さい。