爆発を避けるために考え出された巧みな仕組みの話です。
「Flame Paths」という言葉を聞いたことがありますか?防爆タイプの機器の中にはFlame Paths構造となっているものがあります。Flame Paths構造といってもピンとこない人も多いかも知れません。例えば、密閉されたデッキライトの内部に爆発性ガスが流入すると爆発してライトカバーもろともバラバラになり、さらに周囲に爆発性ガスが残留していれば引火爆発の危険があります。それを防止する構造がFlame Pathsなのです。
爆発性ガスが容器の内部に侵入して、万一、爆発が生じても、容器がその爆発に耐えて、かつ爆発による生成物が外部の爆発性雰囲気に達する前に着火温度より低い温度まで冷却されるので、引火する恐れがありません。内部で爆発した気体が隙間から外部に吹き出る間に冷却されて引火源とならないのです。
ですから危険物積載船でデッキライトの密封性を高めるためにライトカバーにシリコンを塗るのは、逆に危険な状況を作り出していることになるのです。ライトカバーにある隙間は意図的に作られています。ライトカバーを密閉させることは容易ではありません。経年劣化やひずみにより密閉不良を起こすものです。そこで逆転の発想で、密閉することは諦めて、引火時に冷却させて発火源を作らない仕組みを作り上げているのです。
話は変わって、船の居住区にも使用されている防火隔壁の話です。学校で習ったかも知れませんが、SOLAS上の防火隔壁にA、B、Cの3種類があります。それぞれ防火隔壁としてのスペックが決まっており、C、B、Aの順番に耐火性能が高くなり、A級隔壁(A級仕切り)が最も耐火性能に優れています。部屋によっては隣の人の咳、声やテレビ・ゲームの音が聞こえてくることがありますが、おそらくその壁はC級の防火隔壁かそれ以下の壁なのでしょう。
ある船では豪州でPSC検査を受けた際、検査員が階段付近の壁に穴があるのを発見し、Deficiencyを取られました。最近はどの船でも船内LANの環境が整備されつつありますが、その船では乗組員が居住区階段スペースの壁に穴を開けてLANケーブルを這わせていたのです。その壁がA級仕切りであったので、指摘を受けたのです。A級仕切りは火災が発生しても一定時間以上温度が上昇しない耐熱性が求められる隔壁です。その仕切りに穴を開けるという改造は問題です。例え小さな穴と言えども、会社の許可を取り、必要ならば船級の承認を得なければ、防火隔壁の改造は行えません。ついつい、「居住区内の壁なので問題ない。」と安易に思うかも知れませんが、ルール的には完全にアウトです。乗組員によるどんな改造工事でも細心の注意と会社への報告が必要であるということです。