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もしも、係船索が切れたら(その1)

甲板部作業の中でトラブルが多いといわれる作業の一つが、係留作業です。種々ある甲板部作業の中でも、係留作業中のトラブルが圧倒的に多く発生しています。そのトラブルの種類を見ても機器故障・劣化や操作ミス・連携ミス等多岐にわたっています。

そして、そのトラブル発生のタイミングも入港準備作業中、係船作業中、出港作業中等々あらゆる局面で発生しています。特に乗組員同士や乗組員と陸上作業員が意思疎通をはかりながら行う綱取り作業は要注意です。私達乗組員と陸上作業員・タグ作業員とのやり取りが上手くできず、その結果として多くのトラブルが発生しています。

係留作業事故の原因を分類すると、大まかには以下の3つの範疇に分類できます。
① 自分のうっかりミスで発生するトラブル
② 不十分なチームワークやコミュニケーション不足で発生するトラブル
③ 係船機の故障や係留索劣化等ハードに起因するトラブル

まず、自分のうっかりミスで発生するトラブルの例を挙げてみましょう。最近は「Snap Back Zone」という言葉も聞き慣れました。係留索やタグラインの切断時に切れたラインが跳ね返ってくる可能性のある場所のことです。切断ロープの跳ね返りで起こる人身事故は自分自身の立ち位置が悪いことによって起こる事故です。当然のことですが、立ち位置が悪いと非常に危険です。航海士は舷側に立って係留索の張り具合とウィンチ操作者の両方が見える位置に立つため、何気なく立った場所がSnap Back Zoneということもあります。

もし係留索が過度の張力で切断した場合、係留索が飛んできて航海士に直撃する可能性さえあります。係船索やファイヤーワイヤーを舷外に降ろす場合にも自分の立ち位置が安全であることを確認する必要があります。さらに自分の立ち位置だけでなく、他の甲板部作業員の立ち位置にも常に気を配り、Snap Back Zoneに立っている作業員がいれば、立ち入らないよう指示する配慮が必要です。繰り返しになりますが、係留作業での人身事故は絶対に起こしてはいけません。不慮の事故は突然に襲ってきます。係留索が切断して、その切断した係留索が飛んできて乗組員や陸上作業員に激突するという痛ましい事故は絶対に避けなければいけません。

係留索切断以外にも様々な危険が潜んでいます。舷外に降ろしたタグライン、ファイヤーワイヤー、係留索がその重さで突然甲板上を走りだして、乗組員の足元に激突することもあります。あるいは、タグボートが連絡もなくタグラインを巻き始めて、強いテンションがタグラインにかかり、甲板部作業員の体に当たることもあります。タグラインを船上ボラードに取る時にまだ乗組員が作業中にタグボートがタグラインを引っ張り、乗組員が怪我をすることもあります。その逆にタグラインをレッコーするときにタグボート上の作業員に合図をせずにタグラインをレッコーしてタグボート作業員が怪我をすることもあります。明らかにコミュニケーション不足、意思疎通ができていないことが原因です。

係留索やファイヤーワイヤーを甲板上に準備中に乗組員同士の意思疎通ができていないままウィンチ操作を行い、他の乗組員がウィンチドラムや係留索で怪我をすることもあります。作業前や作業中に打ち合わせを行い、指示者と作業者が共通認識を持つことが重要なことは言うまでもありません。Mooring Winchを操作する甲板部作業員のオペレーションミスによるトラブルもあります。陸上フックにかかった係船索を巻く速度が速すぎると、係船索に過度なテンションが働き、係船索が損傷する可能性があります。

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