ウインチドラムに巻かれている『係船索のカバー』の話です。
船では出港後の手仕舞い作業で係船索を巻いたウインチドラムにキャンバスカバーをかけます。その理由は?錆防止?Mooring Wireの係船索に潮風が当たって塩分が付着して錆びが進行するのを防止するためという理由を真っ先に思い浮かぶ人が多いかも知れません。
しかし、海水に浸かったMooring Wireをいくらその表面を清水で洗っても、濡れたまま、まだ乾いていないうちからキャンバスカバーをするのでは防錆対策としてどれほど効果があるでしょうか?そもそも合成繊維の係船索でも航海中はキャンバスカバーをしています。なぜでしょうか?
実はもっと重要な理由があるのです。それは繊維索(ホーサー)やTail Ropeを直接日光にさらさないようにするためです。紫外線に弱いのは人間のお肌だけではありません。Tail Ropeは日光にさらされた状態にすると紫外線の影響で劣化が激しいと言われています。ですから、Tail Ropeにとっては出港後に外してストアー内に保管するのが最良の保管方法なのです。しかし、入出港のたびにTail Ropeを取り付け・取り外すのは大変です。
そのため、ウインチドラムをキャンバスカバーで覆って直接日光にさらさないようにしているのです。パイロットラダーも同様の理由で航海中はキャンパスカバーで保護しています。麻製のロープや木製板が直射日光にさらされると傷みが早いのです。ライフボートの乗艇用はしごにカバーをかけているのも同じ理由からです。
紫外線に弱いTail Ropeですが、その使用期限はどれぐらいでしょうか?極端な話をすれば、切れなければセーフです。しかし、当然、切れてから替えるのでは遅すぎます。最近はSIRE InspectionでTail Ropeの使用期限をOCIMF推奨の18ヶ月間とするよう指摘があり、多くの船では18ヶ月間を交換のタイミングとしているようです。サービス時間(停泊中に実際に使用している時間の合計)が1000時間等一定時間以上になったら交換するという基準もありますが、前述したように日光にさらされると使用していなくても経年劣化が進行します。従って、使用頻度にかかわらず、運用開始後18ヶ月間を期限とする方が妥当であると言えます。
ホーサーやTail Ropeの材質についても少し説明しておきます。材質にはナイロン(Nylon)、ポリエステル(Polyester)、ポリプロピレン(polypropylene)と舌を噛みそうな材質がいくつかありますが、OCIMFではポリプロピレンの使用を推奨していません。ですからポリプロピレン製のTail Ropeを使用していると検査時に指摘されます。ポリプロピレンがホーサーやTail Ropeに不適とされる理由は、ポリプロピレンが他材質(ポリエステルやナイロン)より軽量という利点があるのですが、欠点として熱に弱く、また繰り返し応力に弱いためです。これまでは「ポリプロピレンはダメ!」が常識でしたが、最近ではポリエステルとポリプロピレンの特性を活かした複合素材の高機能ロープも幅広く利用されています。
『日焼け』の話をもう一つ。フィリピン人やインドネシア人のRatingは晴れて直射日光の強い天気のもとでデッキ仕事をするときは必ずと言っていいほど、ウェスで顔面を覆います。デッキで甲板部のRatingと出会っても誰だかまったくわかりません。ただでさえ熱い炎天下でなぜ覆面をするか尋ねると、彼ら曰く「日焼けしたくない。」そうです。フィリピン人やインドネシア人の男女は色白の肌に非常に強い憧れがあるようです。きっと、独身のRatingは下船して彼女にもてたいために、暑いのを辛抱強く我慢して覆面しているのでしょう。