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できの悪い船員を下船させるのは、そう簡単ではありません

怪我した乗組員や落第の乗組員の『下船手続き』の話です。

大昔の話ですが、ある局長さん(通信長)が乗船したその日のうちに下船となりました。乗船日に下船とは、普通では考えられません。しかし、ライセンス不備や怪我ならば、十分にあり得ます。実際にその乗船したばかりの局長さんは、早速の事務作業として紙を切るために裁断機を使用したところ、誤って自分の左指をザックリと切ってしまいました。かなり深い傷のため、そのまま乗船を続けることができなくなり、しかたなく前任者がそのまま継続乗船し、交代が中止になってしまいました。

下船の話ではないですが、刃物による怪我の話をもう一つ。ある3/Oがカッターナイフで自分の指を切ってしまったのです。内地の港で10個以上の段ボールに入った船用品を受領しました。忙しい荷役作業の合間をぬって3/Oは自分の担当する船用品を1箱ずつカッターナイフで切りながら、箱を開けて中身を確認しているときでした。3/Oは航海当直から入港S/B作業へと連続して睡眠不足と過重労働で疲れていたのでしょう。あるいは、上陸して遊ぶことを空想して集中力がなくなっていたのでしょうか?いずれにせよカッターナイフでたくさんの段ボール箱を切って開ける作業をしていると疲れて、注意力もなくなってくるはずです。

運悪く3/Oの手元が滑って右手で持っていたカッターナイフの刃先が箱を支えていた左手に触れて、左手中指をザックリと切ってしまいました。あまりの傷の深さや出血の多さにさぞ当人もびっくりしたことでしょう。日本人3/Oだったので直ぐに自分で上陸して医者へ行き、1針ぬってもらって帰ってきました。思わぬところに危険が潜んでいます。刃物の取り扱いに注意すべきは司厨部だけではないのです。刃物やのこぎりを使用するときには、適度な緊張と注意力が必要ということです。

ちなみに、指の呼び方は、幼児語では、親指から順番にお父さん指、お母さん指、お兄さん指、お姉さん指、あかちゃん指ですが、医学用語では親指から小指まで第1指から第5指となり、医学用語名は母指、示指、中指、薬指、小指です。また、指の関節の数え方は日本と外国では異なるようで、日本では指の関節は指先から第一関節、第二関節と数えますが、英語では指の根元から数えます。

怪我や病気になった人を下船させる手続きは、まだ比較的容易です。ところができの悪い人、素行の悪い人、落第の烙印を押された人を下船させるのは想像以上に大変です。特に外国人船員の場合は雇用契約問題でトラブルになることが珍しくなく、最悪のケースとして裁判沙汰・訴訟問題になることもあります。従って下船させる相手に裁判で負けないために提示・説明できる証拠・エビデンスを本船は周到に用意する必要があります。

乗船中の外国人船員のできが悪いからといって一方的に下船させることは簡単ではないのです。彼ら外国人船員にとっては雇用契約がよりどころです。彼らは雇用契約しか頼るものはないのです。逆に言えば彼らは雇用契約のみによって自身の雇用が守られているのです。彼らが強制的に下船させられたことに納得いかずに訴訟問題に発展することもあります。聞くところによると下船させられた船員を相手に商売をしている弁護士がおり、訴訟を起こすよう勧めているそうです。裁判になっても会社側が勝てるとは限りません。

そこで裁判に勝つための材料として客観的事実を残す必要があります。例えば、普段から小さな出来事でも問題船員の職務怠慢・職務不履行の事実を記録しておくことです。そして船長だけでなく、証人として主任者や同僚のサインも取り付けます。また、1st Written Notice、2nd Written Noticeという警告文を作成しておくことも重要です。1st はYellow Card(注意)、2ndはRed Card(退場)です。不当な行為や態度を警告しても改善の余地が見られないという事実が重要なのです。 いずれにせよ、できの悪い船員を下船させるには多大な労力が必要ということです。

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