船で重宝され、様々な機器で使用されている『空気』の話です。
船で使用する圧縮空気(Compressed Air)には、制御用空気(Control Air)と雑用空気(General Service Air)の2系統があり、両方ともに機関室の空気圧縮機(Air Compressor)で作られます。
制御空気の方は重要機器の制御に使用されるため、除湿が十分にされていますが、雑用空気の方はかなり多くの湿気を含んでいることがあります。従って、雑用空気は舷梯やエアーキャプスタンを使用する前にパージバルブを開けて十分にAir Pipe内のドレンを切ってから使用する必要があります。Drain Filterによって水分除去しているからと安心してはいけません。Drain Filterでは水分除去が不十分です。
では質問です。
甲板上の雑用エアーの圧力はどれぐらいですか?
おおよそですが、6~7kg/cm2が甲板上で使用している雑用エアーの圧力です。機関室に設置しているAir Compressorで作られた圧縮空気は一旦、Air Reservoir(空気貯蔵タンク)に蓄圧されています。そして雑用エアーはAir Reservoirから甲板上の機器へ直接供給されます。一方、制御空気はAir ReservoirからDryerを通して十分に湿気を除去してから、さらにRegulatorという減圧調整装置(弁)によって必要な圧力に減圧されて各機器に供給されます。例えば、空気式トランスミッターへは0.1kg/cm2近くまで減圧された空気が供給されます。
航海士はこのRegulatorを壊します。代表的なミスは、救命艇のエアーボトルの残圧をチェックするときです。私も若い頃にRegulatorを壊したことがあります。Regulatorの出口弁(低圧側)を全開にしたまま、エアーボトルのバルブを開けてしまうというミスです。通常のネジは閉め込むと「閉」で緩めると「開」ですが、Regulatorの場合、逆に閉め込むと「開」となるので、勘違いして出口弁を全開にしてしまうのです。
エアーは100kg/cm2以上の高圧であり、その高圧を数kg/cm2の低圧まで減圧しているので、出口側のゲージの圧力範囲はせいぜい10~20kg/cm2です。そこに100kg/cm2以上の圧力がかかるとゲージの針があっという間に振り切れて壊れてしまいます。そして、圧力に耐えられなくなった場合は、安全弁の銅板が破れてシューっとエアーが噴出します。皆さんもRegulatorを操作するときは、出口側がFull Openになっていないことを確認してから、入口側を開けるようにして下さい。ノブを回す方向は逆です。右回しがOpenで左回しがShutです。興味ある人はRegulatorの構造図を一度見て下さい。
船では多数のタイプの潤滑油を使用しています。自分の乗船している船の甲板及び機関の各種機器に何種類ぐらいのLOとGreaseが使用されていると思いますか? 私が乗船した船で使用されているLO・Greaseの種類を数えたら、なんとLOは23種類、Greaseは7種類でした。合計30種類ものLO・Greaseが使用されているのです。ですから、うっかりすると間違った種類のLOやGreaseを使用することになります。
機関部より甲板部の方がLO・Greaseの種類に注意しない人が多いようですので、要注意です。どの船にもLO・Greaseの一覧表がありますから、仕事のできる航海士と言われるようになるため、是非、コピーして手元に置いて下さい。私達の周囲にはAirやLOがたくさんあり、何気なく使用していますが、航海士ならばより一歩深く踏み込んで理解しておく必要があります。
昔、航海士は外航近代化船に乗船するため「Watch Officer」という当直限定の免状を取得していました。まがりなりにも反対職(機関部)の勉強をしており、機関システムの概略は少しは理解していたおかげで、機関士とのコミュニケーションが円滑になったことがたくさんあります。皆さんも機関部のことは知らなくて良い、関係ないと消極的、後ろ向きにならずに、興味を持って積極的に機関部のことも知ってください。概略で結構ですので、機関部のことを少しでも理解しておけば、将来きっと役に立つはずです。