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固定観念を捨てて、発想の転換を

『固定観念と発想転換』の話です。人は一旦、固定観念にとらわれてしまうと、なかなか発想の転換ができません。

下の写真の船の船橋を見て下さい。何やら違和感を覚えるはずです。

そうです。船幅に比べて船橋Wingの幅が短過ぎます。Wingが舷側まで届いていません。

写真の船は建造中ではありません。私もこの奇妙な恰好をした船を実際に見たことがありますが、本当に驚きました。着桟するときにパイロットや船長はWingに出て下方をのぞき込んで船体と桟橋フェンダーの位置関係をチェックしながら着離桟操船するのが普通ですが、この船では船橋Wingに出ても舷側が見えません。

おそらくモニターカメラやパソコンを使った最新鋭の操船支援装置がWingや船橋に装備されており、Wingから下方を覗き込む必要がないのでしょう。目視と同等かそれ以上の操船情報が必要な形で必要なときに得られるならば、それで良いという発想です。確かに情報の信頼性が100%ならば、Wingから下方を覗き込む必要はありません。カメラや操船支援装置を用い、Joystickによる操船に慣れれば、従来型の船と同様かそれ以上に安全な離着桟操船が可能なのかも知れません。

場合によっては固定観念を捨てることや発想の転換も必要ということです。ブリッジウィングの短い船を紹介しましたが、逆にブリッジの長〜い船も紹介しておきましょう。下写真の船はウィングが無く、舷側の端から端まで屋根付の全閉型の船橋です。これは氷海航行仕様の船です。

甲板上で入出港S/Bしている甲板部の人達には申し訳ありませんが、マイナス10度を超える極寒の地における入出港S/B作業であっても船橋内は快適な室温です。船長、パイロット、3/O、Q/Mにとっては極寒も極暑も関係ありません。

発想の転換と言えば、ウィングにあるレピータコンパスの例も紹介します。どの船もレピータコンパスの位置が内側過ぎて、着桟操船するパイロットや船長が立っている位置から見えずに、度々レピータを覗きに行く必要があります。

レピータの位置をもっとWing端にもっていけば良いのです。しかし、新造船ならいざ知らず、Running中にレピータコンパスの位置を簡単に改造することはできません。

そこで、ある人がこの問題を解消するためのGood Idea考えました。レピータコンパスを傾ければ良いのです。レピータコンパスの盤面を外側に大きく傾ければ、操船者からも見えて、いちいちレピータを覗きに行く必要はなくなります。なお、レピータコンパスの盤面を傾けて使用しても問題ないことはメーカーに確認済みです。皆さんもこのようにちょっとした発想の転換ができる人になって下さい。

レピータコンパスの話を続けますが、着桟操船のときにレピータコンパスで岸壁法線を参考にしていますか?岸壁に対する船首の向きを知るためにレピータコンパスを参考にするパイロットも結構多いようです。船種によっても違うでしょうが、毎航のように同じ港に寄港する船ではその岸壁法線をレピータコンパスの下方に記載しています。この表示があると本船の向きと岸壁法線の関係が一目瞭然。平行な位置関係にあるかどうか、何度傾いているかが正確に判ります。もし、あなたの船のレピータコンパスに表示されていないなら、是非、頻繁に訪れる港の岸壁法線を表示して下さい。船長からきっと喜ばれるはずです。

発想の転換に関する話を続けます。昔ある人が提案していましたが、レーダー2台が並んでおり、その横にECDISを置いている船より、レーダーとECDISを交互に置くほうがメリットがあるというのです。通常2台レーダーが並んでいると2名で各1台使用する場合、少し近すぎます。さらにECDISが遠い位置にあるとレーダー画像と比較しながら使用することができません。交互にレーダーとECDISがあれば、両方のレーダー利用者はECDISと対比しやすく、2台のレーダーの距離も適度に離れるという利点があります。

船内の憩いの場であるラウンジの位置にも発想の転換があります。日本船では決まったように食堂のそばにラウンジが作られています。しかし、外船仕様の船によってはラウンジがD Deckフロアーにあります。ラウンジは一日の疲れを癒してリラックスする憩いの場所です。居室を出てすぐ目の前にラウンジがあるのは便利で快適な生活空間となります。こんなところにも発想の転換があるのです。

同じ船種の船舶をたくさん所有・管理している外国船社がありますが、その会社の船はすべて同じ部屋割りで道具の置き場所や書類の置き場所までが、すべて同じであると聞きました。ハンマー一つどの船も同じ場所にあるのです。これは私達乗組員にとっては非常に助かります。違う船に乗船してもすぐに作業に取り掛かれます。

この方式を船内LANに利用するというアイデアはどうでしょうか?すべての船の船内LANの共有フォルダーの名前や配置を同じにするのです。そうすれば、新しく乗船しても、パソコン内のどこにどんなファイルがあるのかを覚えており、すぐにアクセスできます。現実は船毎にフォルダー名やファイル名が異なっており、乗船して当分の間は船内システムの操作に慣れるだけでも一苦労です。

皆さんは日頃から、何気ない作業や生活に不自由さを感じたり、不満を溜め込んだりしていませんか?少し見方、考え方を変えてみて、不自由さを解決しませんか?私達の身のまわり、船内の作業環境・生活環境にはまだまだ工夫一つで便利になったり、仕事が楽になることがあるはずです。今は提案やBest Practiceという制度があるのですから、それに積極的に参加してみましょう。

ある人が「事故やトラブルを防止するため、タブーや固定観念を捨て、若く柔軟かつ積極的な発想で海陸の知恵を結集して、現実の中から最良と思われる方策を見つけ出し、これからの事故防止の「基本」を創造していく必要がある。」と言っていました。私はこの話に非常に共感を覚えました。大事故が起こって基本に返れ(Return to Basics)と言っても、ただ単にスローガンとして「基本に返れ」では、根性論だけで、あまり意味がないのではないでしょうか?現在の船のシステムに合致した「基本」を創造し、その「基本」をベースにした安全運航が求められるのではないでしょうか?

ですから、皆さんも最新の「基本」とは何か?私達に求められる「基本」とは何か?を真剣に考え、諸問題を抱えている今の船の安全を維持できるほんとうの「基本」を作り出すように「発想の転換」、「既成概念の破壊」を試みてください。その先に「安全運航維持を達成するための真の答え」があるかも知れません。

日頃の書類ワークの多さに辟易している皆さんも多いことと思います。こんなにたくさんの書類作業に追われていて、ほんとうに一人前の海技従事者になれるのだろうか?と不安がっている若い航海士もいますが、大丈夫です。個々、日々の努力の積み重ねによって、皆さんの時代に合致した海技ノウハウを間違いなく習得できるはずです。そして、船上という現場で習得した海技ノウハウを陸上での船舶マネージメント業務で大いに腕を発揮して下さい。

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