トラブル発生時に船側から陸上側に対して行う『抗議』の話です。
船で作成する重要な書類に「Statement of Fact」や「Protest Letter」があります。「Statement of Fact」は日本語で言う「現認書」のことで、通常略して「ステメン」と言います。タグやバージが本船に接近して誤って衝突して本船外板を傷つけたり、荷役作業中のトラブルで荷役作業が大幅に遅れたり、陸上側の過失で本船の構造物や機器を壊したりした場合に本船側はステメンを作成して、相手方の承認、サインを取り付けます。
しかし、相手方も簡単に自分の過失を認めることは滅多になく、ステメンになかなかサインをしません。サインする場合でも殆どが「Received Only」と条件を付けてサインします。これにより「私は受け取るだけで、その内容について私は認めません、責任を負いません。」という意思表示です。ステメンはときには自分側の責任・過失や事実関係を明確にするために作成する場合もあります。こちらに非がある内容のステメンならば、相手側も素直にサインするはずです。
通常は、お互い当事者だけで解決することは無理で、時間もありません。従って、両者が客観的な事実だけを認め合って、後の交渉は陸上(管理会社・営業)が行うこととなります。そのための重要な証拠になるのが「Statement of Fact」なのです。
ですから、「Received Only」でかまいませんから、相手方のサインを取り付けることが重要です。サインを取り付けて、あとの交渉は陸上スタッフに任せれば良いのです。荷役責任者(甲板部責任者)で経験豊富なベテランC/Oになると事故が発生したとき、この「ステメン」を瞬く間に作成して、手際よく事故処理を行います。
また、「Protest Letter」という書類があります。日本語では「抗議文」と強烈な印象になりますが、この書類はタンカー荷役や補油の際に作成します。ステメンよりも相手に強く「意義有り」「文句あり」という意思を示す書類です。日本以外の港でバージにより補油する場合、ほとんどが予定補油数量を下回って補油が終了します。
例えば2,000MTの補油予定が、1,940MTしか積まれずに補油作業が終了してしまいます。あと60MTよこせと要求してもバージ側はもう無いの一点張りです。シンガポールやフジャイラで補油する場合には、まるでお決まりの三文芝居のように必ず60~70MTのショートで終わります。その点、日本で補油する場合は、いつも誤差は限りなく小さく、ほぼ予定数量通りに積み込まれるので安心です。
昔からバンカーバージには隠しFOタンクがあり、そこへショート分の油を溜め込んで、バージの船長が小遣い稼ぎのために転売しているのだと噂されています。バージ側が誤魔化す方法は色々あります。温度計測時に低めの温度を読み取る。トリム・リスト修正でごまかす。承認されていない偽りのタンクテーブルを使用する。短く切ったサウンディングロッドを使用する等々。定かではありませんが、本当にFOをネコババしているのではないかと思えるぐらい見事に毎回同程度の補油量が不足します。
トラブル防止及び正確な検量のために公平な立場のサーベーヤーが立ち会ってもやはり補油量が不足します。その場合、本船は「Protest Letter」を作成して相手のバージに渡します。バージ側の猿芝居に付き合っている時間はありません。後は陸上(営業)での交渉に任せます。余談ですが、あまり執拗に不足分のFOを積み込むようにバージ側に要求すると、相手方も一枚上手で、最悪の場合、FOの代わりに海水をこっそり本船に送ってくることがあると聞きます。本当の話かどうか判りませんが、苦労するのは出港後の本船です。