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新人には気を付けろ!(その1)

『乗組員が交代したときの注意事項』の話です。

表題を「新人には気を付けろ!」としましたが、「日本人の若手航海士は仕事ができないから気を付けろ!」という意味ではありませんので、誤解しないで下さい。「新人」とは、あたらしく乗船してきた乗組員、他の会社から移籍してきた乗組員、つまり本船に慣れていない人のことです。今まで当たり前のようにトラブルなく行われていた作業が、新人の乗組員へ交代した途端に当たり前でなくなり、トラブルが発生するということが頻繁にあります。乗組員の交代直後は十分に注意する必要があるということです。

例を一つ紹介します。ある船で夜中に荷役作業が終了し、出港までに数時間あったため、Lying WatchのAB以外の全員が休息仮眠を取ることにしました。このときの当直ABが他社から移籍してきた新人ABだったのです。夜が明けて出港準備のため、皆が起きて岸壁を見てびっくり仰天です。船首尾全ての係留ワイヤーが海面に届くほど緩められており、船全体がフェンダーから3、4m離れた状態になっているではありませんか。船長以下全員が、何が起こったか直ぐには理解できませんでした。

当時、港内に大きなうねりが入ってきて船の動揺に合わせてMooring Wireがピンと張ったり、たるんだりを繰り返していました。新人の当直ABはワイヤーが切れるのではないかと思ったのでしょう。彼はワイヤーがピンと張るのを防止するために全ワイヤーを緩めたようです。その結果、船体が岸壁から3、4m離れてしまったのです。

最初はなぜ全ラインが同じ長さだけ緩んでいるのかわからず、ボースンに尋ねたところ、うねりでブレーキが緩んだのだろうと返答がありましたが、そんなはずがありません。全ワイヤー同時に均等に数メートル緩むはずがありません。当直ABを庇うつもりで言ったのでしょうが、これは紛れも無く当直ABが緩めたものです。一歩間違えば船体やフェンダー等に大きな損傷を与える可能性がありました。いつもと違う人が目の届かないところで作業をする場合には思わぬ危険が潜在しているという例です。

また、こんなこともありました。乗船中のDeck Cadetが訓練も既に数か月が経ち、甲板部の仕事もある程度は理解できるレベルとなってきたときでした。たまたま彼一人で舷梯を巻き揚げる作業をすることとなりました。作業自体はエアー元弁を開けて操作レバーを倒して舷梯を巻き揚げるだけで、誰でもできる簡単な作業です。しかし、Deck Cadetが舷梯をデッキレベルまで巻き揚げたとき、舷梯のHandrailが曲損してしまいました。この舷梯はHandrailを立てた状態で巻き揚げるため、Handrailが舷側に張り出している支柱に当たる前に巻き揚げを止めなければいけません。しかし、止めるのが遅れてHandrailが支柱に当たってしまったのです。Deck Cadetは舷梯をどの位置まで巻き揚げて止めるのかを知らなかったのです。ハンドレールが何かに当たるという発想がなかったのです。経験者なら簡単にできるこのような作業も初心者にとっては操作要領が身についていないのです。

このDeck Cadetはきっと巻き揚げるときに舷梯の最下部ステップ付近ばかり見ており、巻き揚げて最初に舷梯中間付近のHandrailが支柱に当たることを知らなかったのです。Deck下3mぐらいまで舷梯を揚げると、中間付近のHandrailが支柱に当たるので、完全にDeck Levelまで巻き揚げて収納するにはHandrailを倒さなければいけません。このように熟練者では何気なく行っている作業も初心者や新人にとっては簡単ではないのです。

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