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300メートルの船に10センチの微調整を求めないで

『係船機のリモコン操作』の話です。

入出港スタンバイ作業時、「船首尾配置の航海士は作業全体を指揮・監督する必要があるので、ムアリングウインチの機側レバーはもちろんのこと、遠隔操作レバーも絶対に持ってはいけない、他クルーに操作させろ。」と主張する船長がいました。しかし、私の意見は少し違います。航海士が自身でウインチを操作するのは、ケースバイケース・臨機応変だと思います。当然、航海士は作業全体を指揮・監督する責務を負っていますが、操作レバーを持っていようが持っていまいが、作業全体を指揮・監督することに変わりはありません。場合によっては自分で操作レバーを持つべきときがあります。それは1st LineであるSpring Lineを取るときです。

Spring Lineを船首尾の陸上フックに取った後、そのSpring Lineによって船体の前後位置を調整することが多々あります。例えばLNG船では5cm、10cm単位でマニフォールド位置の調整が要求されます。300m近くある巨大な船に10cm上れ、10cm下がれと要求するのはある意味ナンセンスですが、日本のほとんどのLNGターミナルでは、10cmの誤差も許してくれません。

こんなところに日本人の生真面目さ、几帳面さがよく表れています。外国のターミナルでは10cm程度は「No Problem」というところがほとんどです。車の車庫入れではないのですから、10cm程度のズレは誤差範囲として欲しいものです。荷役による喫水変化、港内の波・潮汐で停泊中に10cmぐらいは簡単に移動してしまうのが、大型船です。

話が脱線してしまいましたが、このように船体位置の調整のために微妙なウインチ操作が求められるときには、船橋とやり取りする航海士がウインチの操作レバーを握ったほうが迅速かつ微妙なTension調整がスムーズに行くのは当然です。もちろん、その場合には航海士は船外のSpring Lineの張り具合を見ながら操作することになり、全体を見渡すことができなくなりますので、他の者が航海士をFollowしてウインチ周辺がクリアーであることを確認しなければいけません。

また、船尾配置で2/OがSpring Lineを陸へ送り出しているときに、甲板部員が2/Oの監督・監視していないところでBreast Lineを陸上へ送って良いかどうか?これも度々議論される問題です。船首はスペースが比較的狭いのでC/Oや1/Oの監視が行き届いて問題ないかもしれません。しかし、船尾はその構造から2/Oの目が届きにくいはずです。基本的にはOfficerの監督・責任の元で係船索を送り出すのが正しい手順です。

しかし、係船索を送り出すだけの作業に特に危険がないと判断すれば、部員だけで係船索を送り出す作業を行っても問題はないはずです。2/Oを待っていて係船作業が遅れることと、2/Oのいないときに係船索を送ることの危険性・重要性のどちらに重きを置くかという判断が必要です。

ある船では、2/OがWinch Drumの状態を確認しないで巻いたため、DrumにWireが噛んでしまい、巻き方向が途中で逆方向になっても気づかずに巻き続けて、WireにキンクができてMooring Wire 1本をダメにしたことがあります。先ほどの話と矛盾するかも知れませんが、やはりウインチ操作するものは全体の状況を確認すべきであり、もし一人で全体の状況確認ができなければ、誰かにアシストしてもらうよう対策を講じる必要があります。そして、このような失敗事例が発生した場合、作業手順について各人が様々な意見をぶつけ合い、議論することにより、何が問題であるかを再認識し、事故再発の防止対策を講じることが重要なのです。

ある船では、2/Oから船尾スプリングのリモコンの動きがおかしいと報告がありました。調べてみると、ウインチ機側の操作レバーにリモコン用レバーを引っ掛けるときに、ウインチ操作レバーが斜めの状態でリモコン用レバーを引っ掛けると、ニュートラル位置がずれてしまうことがわかりました。そのために2/Oが自分の意図するところで巻き出し、巻き揚げができない状態となっていました。皆さんもウインチ機側でリモコン用レバーを掛けるときは、操作レバーが中央位置にあることを確認してください。

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