新人が慌てて行動して失敗した例を紹介します。
ある航海実習生が入港スタンバイ作業時に船橋配置となり、ブリッジコンソールの前でテレグラフ操作やベルブックの記録を担当していたときのことです。パイロットが突然、「バウスラスター、Full Starboard!」と号令を掛けました。その実習生は今までバウスラスターの操作レバーに触ったことがなく、慌ててレバーを制限値以上に動かしました。下手をすれば、スラスターがトリップする場所まで一気に動かしたのです。
何も考えずにとにかく急いでやらなければと慌てたために取った動作で、非常に危険です。このように想定外のことや経験がないことを行うとき、少しでも不安があるとき、完全に理解していないことをするときは、慌てず一呼吸置くか、知っている人に確認するぐらいに慎重に行動しなればいけません。「行動を起こす前に一呼吸置いて、まず確認!」です。
また、交代したばかりの外国人2/Oがトラブルを起こした事例も紹介します。
出港スタンバイでLast Lineのスプリングライン2本を同時にLet goした後に起こりました。スプリングを巻き揚げて行くと、最後は陸上フェンダー止めの大きな鎖の上をスプリングラインが通過し、最後は海面にザバンと音をたてて落ち、ラインクリアーとなるところです。しかし、このときはたまたま片側のスプリングラインのTail Ropeに付いているジョッキーロープ(Jockey Rope: 20mmの先取りロープ)がこの鎖に絡みついてしまいました。
こういうときは一旦緩めて陸上作業員にクリアーにしてもらうのが普通です。ところが、その2/Oは絡まった状態に気付かずにWinchで巻き続けてしまいました。当然一番弱いジョッキーロープが切断しました。幸いジョッキーロープ切断以外に陸側設備や本船側に損傷はなく大事には至りませんでしたが、絡まった部分がWireやTail Ropeであったら、それこそフェンダー施設を損傷させていたかも知れません。
絡まったことに気付かないのは、係船索を巻き揚げるときにどこにどんな危険が潜んでいるかを知らないためです。係船索がフェンダーの上を通過するときは、その状態を自分の目で確かめるのは担当航海士として常識です。以上のように乗組員が交代したときにニアミス、事故が沢山発生しています。繰り返して言いますが、乗組員が交代したとき、新人が乗船したときは要注意です。
Jockey Ropeのトラブルといえば、ある船で係留作業中にJockey RopeがTail Ropeから抜け落ちるというトラブルがありました。ターミナルによっては、Jockey Ropeを使用して係留索を陸上ドルフィンに引っ張り揚げる場合と直接Tail Ropeのアイを使用して陸上ドルフィンに引っ張り揚げる場合があります。普通はTail RopeにJockey Ropeを編みこませており、しかもヒッチを入れて抜けないように処理しています。
しかし、その船ではヒッチが入っておらず、Jockey Ropeにテンションがかかったときにすっぽり抜けてしまったようです。入港前に係留索の状態を目視点検するとき、ShackleやTail Ropeはしっかりチェックしますが、Jockey Ropeの状態確認は意外と見落としているかも知れません。皆さんも見落としが無いように気を付けてください。