『日本人の誇り』の話です。
インドネシア人やインド人の乗組員は日本人乗組員と比べてプライドが高いと感じることがあります。プライドが高いことが悪いわけではありませんが、日本人同士なら問題ない言動であっても、外国人乗組員に発言すると彼らのプライドを知らず知らずのうちに傷つけていることがあります。彼らのプライドばかり気にしていては仕事になりませんが、不必要に彼らのプライドを傷つけ、無用な摩擦を生じさせないように、お互いの文化、習慣、習性等を尊重し、彼らと上手に付き合う必要があります。もちろん敬意は一方通行であってはいけません。
よく言われることですが、「外国人乗組員に厳しく注意する場合は大勢の前ではなく、二人っきりになってからすること。」が鉄則です。彼らは人前で叱られたり、罵倒されたりすると、日本人が思った以上に拒絶反応を示します。特に職員である航海士や機関士を部員の前で叱ったり、無能呼ばわりしたりすることは厳禁です。二人きりでは素直な彼らも周囲に大勢の人がいたら、威勢を張り、自分の弱点をさらけ出すことを極端に嫌います。
あるとき、インドネシア人乗組員の代表者として、2/Oが私のところへやって来て申し出ました。「キャプテン、今度の港で、インドネシア乗組員全員でパーティーを行いたいので、当直者以外のインドネシア乗組員全員が晩に上陸して朝に帰って来ても良いでしょうか?」 と私の許可を求めるのです。私は唖然としました。当直者2、3人を残して全員が上陸したいと言うのです。彼らは練習船教育を受けていないのでしょうか?「半舷上陸」という言葉さえ知らないのでしょう。
こんなときでも「大バカ野郎!」と怒鳴りつけてはいけません。「2/O、OPMの船内規律の項目を読んだことがあるかな?OPMには緊急離桟等の非常事態に対応できる要員は必ず在船しなければいけないと規定されているよ。これは船員の常識だよ。何があっても半数以上残れとは言わないまでも、非常時に対応すべき最低限の要員は上陸できないよ。」とやさしく説明してあげました。
また別の話ですが、あるインド人が乗り組むLNG船が補油のためにシンガポールにアンカーしました。そして通船を取って乗組員が乗船したのですが、何と甲板部は職員1名、部員1名以外の船長以下、甲板部乗組員の全員が上陸したそうです。非常事態が発生した場合のことなどお構いなしです。
日本人乗組員のつたない英語力では、外国人乗組員に丁寧な表現でこちらの意図を伝えることが難しく、こちらは穏やかに指導しているつもりでも、彼らにとっては全否定のように聞こえたりすることもあります。「以心伝心」という言葉がありますが、あまり感情的にならずに相手の目を見つめながら冷静にこちらの本心を言えば、彼らにも必ずこちらの思いが伝わるはずです。
どんな相手に対してもきちんとした態度で程よい付き合い方をするのが日本人です。日本人航海士の皆さんにも誇り高きプライドがあるはずですが、そのプライドは「高すぎず、低すぎず、バランスの取れた素晴らしきプライド」であることを信じています。