船学の動画サイトがOPEN!

本船の船首に隠れた漁船が再び現れるまで、ハラハラドキドキ

どの船にも必ずある『船首の死角部分(Blind Zone)』の話です。

船首の見通し距離(船橋からの視界:Invisible Distance)について定められた規則を皆さんは知っていますか?本船の船首を横切ろうとする漁船やプレジャーボートが過度に接近して、船首の影に隠れてしまったとき、その船が船首を通過して反対舷から再び姿を現すまで船長ははらはらどきどきで安心できません。まずないとは思いますが、漁船が本船の死角に入ってからエンジンでも故障して停止してしまったら、本船の船首に衝突して大破してしまうこと間違いなしです。

船首の死角に船が入ると本船側ではどうしようもなくなり、漁船任せの他力本願となってしまいます。ですから、船首の死角に小型船が入り込むような局面は出来る限り作らないようにすることが肝要です。LNG船やコンテナ船ではカーゴタンクやコンテナが前方の視界を大幅に遮っており、船首前方に漁船や浮遊物がある場合、死角となる範囲が大きいため非常に危険です。

操船の安全性を維持するため、船首部の死角の最大許容値について、明確にSOLASで規定されています。SOLAS第Ⅴ章の航行の安全の第22規則に「船首方向から両舷方向に各10度の範囲で船舶の長さの2倍あるいは500mのどちらか短い方より遠くが不明瞭であってはならない。」と規定さています。

長さ250m以上の船舶の船首死角は約500mと覚えておけば良いでしょう。死角を500m以下に抑えるためにMOSS型LNG船では船橋をかなり高くしていますが、一方のメンブレン型LNG船では比較的低い船橋で要件を満たすことができます。実際にメンブレン船の船橋に立ってみると、MOSS型船より見晴らしが良く快適です。

Loading Computerでは船の視界が規則を遵守していることをチェックできるようになっています。全てのデータを入力して計算結果を表示させると、要件に合致した視野が確保されていない場合には警告表示がでるようになっています。Loading Computerは船体強度だけでなく、船体姿勢も厳しくチェックしているのです。

SOLAS 条約では、バラスト交換作業時の船首死角についての例外規定が設けられています。SOLAS Amendments Res. MSC.201 (81) により、バラスト漲り替え作業時は適切な見張りをすることにより船首死角が規定値以上になることを許容しているのです。環境保全のためにバラスト漲り替え作業を義務付けていますが、バラスト水をオーバーフローさせる方法ではなく、漲水・排水で漲り替える方法を採用している船舶では、実際のバラスト作業時にトリムが過大となり、現実問題として要件を満足させるだけ船首死角を小さくすることは到底無理です。従ってその現実に起こる問題を補うためにSOLASに例外規定が設定されたのです。

この記事が役に立ったら、お気に入りに登録できます。
お気に入り記事はマイページから確認できます。