作業計画の良し悪しで仕事が上手く行くか行かないかが決まると言っても過言でないほど作業前の計画というものが非常に重要となります。そこで、出港前に準備する航海計画の話です。安全な航海を成就させるためには綿密な計画が必要です。
では、皆さんは「Voyage Plan」と「Passage Plan」という言葉の意味の違いを意識して使っていますか? 同じような意味と捉えがちですが、「Voyage Plan」と「Passage Plan」は似て非なるものなので使い分けて下さい。大雑把に言えばVoyageもPassageも同じような意味になりますが、「Voyage Plan」と「Passage Plan」の言葉の定義から厳密に比べると異なった意味となります。日本語に直すと「航海計画(Voyage Plan)」と「航路計画(Passage Plan)」となります。
「航海計画」とは航海スケジュール、整備・修理計画、補給計画(燃料、LO、船用品、食糧)等航海全般に関わる項目に対する計画です。皆さんもよく知っていると思いますが、船員法で規定されている「発航前の検査」がこれに該当します。船長は出港前に本船が航海に支障がないかどうか、航海に必要な準備が整っているかを検査しなければいけません。船員法施行規則には、より具体的に検査項目について規定されています。
例えば、各機器の状態、貨物の積付け状態、食糧/燃料等物品の積込み状態、気象情報/水路情報等航海に必要な情報の入手、そして必要な船員の乗船まであらゆる船のハード面、ソフト面で航海に必要な項目を点検することとなっています。これらの点検によって結果的に安全を確保した航海計画が成り立つのです。これら広範囲に及ぶ確認・計画を「航海計画」と呼びます。STCW条約Section A-8のPart 2にも「Voyage Planning」について規定されています。STCWでは「機関長が船長と相談して航海を支障なく成就するために必要な燃料、清水、潤滑油、薬品、予備品、道具等の資材について確認、計画を立案する。」と規定されています。
一方「航路計画」とは航行する港間のあらゆる危険を予測し、安全な航行のために航海情報(UKC、Parallel Index、No Go Area等)、気象・海象、距離等の情報を盛り込んだ航海(航行)の安全に特化した計画です。「Voyage Plan」が航海全体を扱ったもので、いわゆる広義な意味での計画で、「Passage Plan」が船舶航行に要点を絞った形の、いわゆる狭義な意味での計画と言えます。いずれにせよ「Voyage Plan」「Passage Plan」ともに出港前に綿密な計画を立案した証拠として書面で記録・保管することが重要です。
そして、Voyage PlanにしてもPassage Planにしても「計画(Plan)」を作成して終わったのでは何の意味もありません。「計画」を作成することが目的ではありません。適切な「計画」を有効活用してこそ、「計画」を立案準備する意義が生まれます。いわゆる「事前調査・事前評価(Appraisal)」→「計画立案(Planning)」→「計画実行・実施(Execution)」→「計画遂行の監視・観察(Monitoring)」というプロセスを進めて行くことが重要なのです。皆さんも計画倒れ、作りっぱなしで終わらないように着実に航海計画・航路計画を遂行して下さい。
ちなみに「計画」を意味する英語には「Plan」の他に「Project」「Scheme」「Program」といった単語があります。最も一般的な「Plan」と比較して、「Project」は長期にわたる計画で、「Scheme」は綿密に練られた計画で、「Program」は行事の実施計画という意味になり、それぞれの言葉を適宜、使い分けています。