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とはいいながら、Spring Lineも“命”です

先日、Breast Lineが”命”という記事を書きましたが、とはいいながら、もちろんBreast Lineだけでなく、Spring Lineも重要です。特にLNG船ではBreast Lineだけでなく、Spring Lineが非常に重要な役割を果たします。

LNG船では着桟時の前後位置(Manifold位置)は10cm単位で調整し、20cmの誤差は許してくれません。ときには「あと5cm前へお願いします」と陸上ターミナルから依頼され、前後位置を調整することもあります。マニフォールド位置をこれだけ厳しく調整する理由は、LNG船の係留中の前後移動が厳しく制限されているからです。

もし制限以上に船体位置が前後移動すると、接続している陸上のLoading Arm / Discharging Armの損傷を防ぐ為の安全装置(ESD :Emergency Shut Down System)が作動するからです。その設定値はターミナルによって異なりますが、正規の位置から約2~3m以上の距離を船体が前後左右に移動すると、自動的にバルブやポンプがシャットダウンし、荷役中断となります。従って、出来るだけ船体移動の許容範囲の中央に船体位置を調整したいのです。

ターミナルの船体移動の許容範囲は2~3m以上あり、10cmや20cmの誤差は大勢に影響ないはずですが、日本の一部のターミナルではこの10cmのズレにこだわり、たとえ10cmでも前後位置がズレていれば、調整するようターミナルから要請が来る場合があります。率直に言って、全長300mの船で10cm単位まで位置調整するのはナンセンス。どうせ積荷・揚荷中に多少前後位置がズレて、それを当直者が調整するのだから、むしろ、当直中にしっかりと位置調整をするように依頼する方が重要です。

逆に言えば、停泊中にSpring Lineの調整を怠ると、船が前後に大きく移動してしまい、最悪の結果としてESDが作動することになります。そのためLNG船では前後移動に最も影響するSpring Lineが非常に重要となるのです。「ブレスト命」と言いながら、スプリングもブレストに負けないぐらい重要な係留索なのです。

係留に関わる言葉で「Parallel Body」という言葉を聞いたことがありますか?直訳すると「平行な体」です。別の言い方では「Flat Body」と言います。船の外板は海水の抵抗を軽減するために船首尾付近で内側に大きく湾曲していますが、船体中央付近は真っ直ぐな平面となっています。「Parallel Body」とは、この真っ直ぐな部分のことで、岸壁と平行になって岸壁フェンダーがタッチする部分です。

着桟(着岸)する岸壁のフェンダーと本船の位置関係を検討するときに、このParallel Body部分の位置や大きさが問題となります。岸壁フェンダーはこの船のParallel Bodyの部分でしか接触しません。

当然、喫水の上下変化により本船外板の平行部分であるParallel Bodyの広さも変化するので、あらゆる船体姿勢の変化に対しても常にフェンダーが船体に当たるように計画しなければいけません。

ところで、Breast LineやSpring Lineに着目しましたが、それではHead Line & Stern Line、いわゆる「流し」は重要ではないのでしょうか?・・・そんなことはありません。「流し」は流しとしての重要な役割があるのです。船体は係留中もほぼ船体中央を中心として前後、上下、左右に横移動及び回転運動をしています。

従って、船体運動量は船首、船尾になればなるほど大きな量となります。船体中央付近を中心に船体運動するので、船体中央から離れるほど激しい動きとなります。この激しい運動を抑制し、船全体が暴れるのを抑えるのが「流し」です。ブレストラインが横移動対応係、スプリングラインが前後移動対応係とすれば、「流しは係留全体の統括コーディネーター」の役目をします。

以前、荒天のために大きなうねりによって船体が大きく動揺する状況で積荷役をする経験をしました。船体がふわふわとゆっくりとした周期で揺れ、その揺れによって係船索が強く張ったり、緩んだりを繰り返している状態でした。多くの係船索が低潮により緩んできたので、Tension調整を行って張り直したところ、船尾の一番外側のStern LineのTail Ropeが切断してしまいました。幸い他のラインは切断せずに無事荷役を終えて出港できました。

後日、Terminalより入手した当時の陸上フックのTension値のトレンド記録を見ると、Spring Line、Breast Lineに比べてHead & Stern LineのTensionの上下動の振幅が圧倒的に大きくなっていました。つまり、船体動揺によって変動するTensionの影響を最も受けている係船索はHead & Stern Lineということがこのデータからも明らかでした。もちろん、うねりの方向によって船体動揺の方向や周期も異なってきますが、とにかく船体動揺によって強弱に変動するTensionを全ての係船索が均等に受けるのではなく、Spring、Breast、Head & Stern Lineによって大きな差があるということを頭に入れておきましょう。

改めてここで説明する必要はないかも知れませんが、船体運動の6種類を紹介しておきます。3次元のXYZ3軸に対する回転運動である「Rolling」、「Pitching」、「Yawing」という言葉は良く使いますが、その他に3軸の軸方向への平行移動は「Heaving」、「Surging」、「Swaying」があります。

少し前に、客船で旅行する機会がありましたが、その客船にはフィンスタビライザー(Fin Stabilizer)が付いており、横揺れ(Rolling)防止にかなりの効果を発揮しています。コンピューターで横揺れに対抗する力を作ることにより横揺れが80~90%も低減できるそうです。一般の商船にも下の写真のような、ビルジキール(Bilge Keel)というフィンスタビライザーと同じ機能のキールが装備されています。このキールが意外にも横揺れを50~80%も抑制する効果があります。

客船はでフィンスタビライザーを使用しない場合は、格納されていますが、聞くところによると、某客船が着岸前にこのフィンスタビライザーを収納するのをうっかり忘れて、フィンスタビライザーが岸壁に接触して損傷したという信じられないような事故があったそうです。

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