前回に続き、『ETA調整』に失敗した話です。
次港の到着まで2日間も余裕があり、広い海域で行ったり来たりShuttlingを繰り返してPilot Station ETAを調整していました。ETAが翌朝の10時となったので、前日の晩に2時間の余裕を残して朝の04-08に引き継ぐよう00-04当直航海士(2/O)へ指示して就寝しました。すると夜中の3時頃に突然、向かい風の強風が吹き始める荒天となりました。寝ていても風の音で目が覚めるぐらいの強風です。
「虫の知らせ」でしょうか、強風が気になって船橋に行ってみると、何と予定ETAに絶対に間に合わない速力まで低下していました。それでも2/Oは船長に連絡してくれません。強風が収まるとでも思ってじっと我慢していたのでしょうか?このような状況では夜中であっても船長を起こして状況を知らせるべきです。さらに調整失敗の原因は2/Oが余裕として確保していた2時間分の距離を勝手に00-03時にDeviationによる調整ですべて使い果たしてしまっていたのです。穏やかな状況が一遍して荒天になることは2/Oの頭にはなく、船速13ノットでETAを計算して2時間分の貯金を使い果たしていたのです。2/Oとしては気を利かせてETA調整したつもりなのでしょう。
しかし、急激な荒天により、9ノットしかスピードは出ていません。強風が吹くことを考慮してわざわざ2時間の余裕を持たせていたのに、時間調整を始めるのが早すぎたのです。結局、早朝05時に機関部を起こして増速してもらい、結果的には遅れずにPilot Stationに到着できました。2日間もの余裕があったのに、最後の最後、ETAの5時間前に増速が必要になるような下手な時間調整をしていたのでは、機関部に対して申し開きができません。海の状態は突然に変化するものです。船速15ノットが急に10ノットになることもあり得ます。皆さんも最悪の気象・海象条件を想定内にしてETAを調整して下さい。
ETA調整失敗と言えば、聞いた話ですが、こんな笑い話のようなこともあります。船長がパイロット乗船時間の調整のため、自らが海図に書き記した地点を指定した時間に通過するよう当直航海士に頼んで就寝しました。船長がS/Bのために起きて船橋に来てびっくりです。その当直航海士は予定通過地点をきっちり正確な時間に通過するように調整していたのは良かったのですが、何あろうことか、コースラインと逆方向を向いて本船が航行していたのです。通過時間が正確でも針路が180度逆とは・・・あり得ないようですが、実際にあった話です。
航海士が行うETA調整は簡単ではないと言いましたが、船長が行うS/B Engine後のPilot Stationまでの速度・時間調整もその手加減が結構難しいものです。S/B Eng.後に所定の船速以下になればAstern Testを行い、その後、パイロットから指示されたBoarding Speedまで増速してPilot Stationへ向かいますが、その減速のタイミングやAstern Engine使用量の加減、増速のタイミング等が絡み合って、しかもパイロットボートがPilot Stationに早めに来るか、遅れて来るかも勘案して速度調整を行うので、船長の長年の経験と勘で、調整することになります。