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ゴミ焼却で排出される有害物質、クリンカーとダイオキシン

船内の廃棄物の処理方法の話です。

外航船はどの船も焼却炉(Incinerator)を装備し、船内の可燃性ゴミは一部のプラスチックゴミを除いて全て焼却炉で処理します。焼却炉に用いる燃料として船内で発生する廃油を使用することができるので、ゴミと廃油の両方を一度に処理して、まさに一石二鳥です。

焼却炉(Incinerator)

焼却炉(Incinerator)

「クリンカー(Clinker)」と言って皆さんはピンと来るでしょうか?英和辞典で引くと「焼塊」という意味です。クリンカーとは文字通りゴミを焼却した後の燃えカス、残った塊です。2002年まではプラスチック類廃棄物を焼却した後に残る灰を海洋投棄することができました。但し、海洋投棄が認められるのは完全にプラスチックが灰状になったものに限られました。しかし、現在は環境保全のため、法律による規制が厳しくなり、プラスチック類の海洋投棄はもちろんのこと、プラスチックを焼却した後の灰も海洋投棄が禁止されています。

焼却炉で一定温度以上の高温で焼却すれば、プラスチックの持つ有害性がなくなり、完全な灰となって海洋投棄が可能でした。しかし、低温で焼却した場合は「クリンカー」という有害物質が残渣物として焼却炉の炉内に残り、これを海洋投棄することはできません。つまり、焼却炉の焼却温度によってプラスチック焼却後の残渣物を海洋投棄できるかどうかが決まりました。現在は高温焼却であってもプラスチック焼却後の灰を海洋投棄できないため、ドラム缶等適当な容器に灰を保管し、ドックや港で陸揚げしています。

ゴミ焼却から発生する環境破壊物質・発がん性物質としてクリンカー以外に「ダイオキシン(ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)の総称)」が有名です。誰かが「ダイオキシンは人体に無害である。実際にダイオキシンで発癌した人はいない。」とテレビ番組で主張していましたが、信憑性がどれほどあるのかわかりません。とにかく、焼却時にダイオキシンを発生させないことです。(1997年頃から世間を騒がせたダイオキシン問題ですが、最近の研究によると、高濃度のダイオキシンは猛毒ですが、環境汚染で人体が摂取する程度では無害であるという説が有力です。)


参考
ダイオキシンについて山形大学健康保全センター

船でダイオキシンが発生するのはゴミの焼却時です。塩化プラスチック系のゴミを燃焼温度の低い焼却炉で処理した場合に多く排出されます。塩化ビニルが含まれているプラスチックの覚え方は「サ」です。サの字が付くサンダルやサランラップ(ラップフィルム)に塩化ビニルが含有されているので、型式承認を受けた焼却炉以外での焼却は禁止です。

焼却の目安となる温度は800℃です。これ以上の温度の焼却炉は、塩化プラスチック系のゴミを燃やしてもダイオキシンの排出が殆どありません。しかし、実際には船内における環境保護推進運動の一環としてプラスチック全般を焼却炉で燃やさずに陸揚げしている船が多いようです。海洋投棄できないプラスチック類はすべて陸揚げ処理しなければいけません。よくドック入渠時に陸揚げし、造船所から陸揚げ証明書を受領している船があります。検査官もこの証明書を見れば、本船のゴミ処理手順が適切に行われていると納得します。

また、シンガポール等一部の港では入港船が関係当局へVHFで連絡すれば、ゴミ回収船が無料で舷側まで来てくれます。実際の船の現場では環境保全意識が高まり、プラスチック類ゴミの完全な陸揚げ手順が確立されつつありますが、肝心の港での受入れ体制の確立が遅れているのが現状であり、解決すべき問題です。

余談ですが、関西人は「プラスチック」のことを「プラッチック」と言います。

注意

本記事の情報は執筆当時のものです。必ず、現在のルールをご確認ください。

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