痛ましい死亡事故が発生する可能性のある『閉鎖区画』の話です。
船内には危険な箇所がたくさんありますが、その代表的な場所として閉鎖区画(Enclosed Space)があります。皆さんがよく知っている通り、閉鎖区画は酸欠事故発生の可能性がある非常に危険な場所です。聞いた話なので真実かどうかわかりませんが、ある船でAPT内検が終了した後、ある乗組員が何らかの理由で1人だけで再びAPT内に戻りました。それを他の乗組員は知らずにマンホールを閉めてしまい、中に閉じ込められてしまいました。そして、その人が行方不明であることにようやく気が付いてマンホールを開けましたが既に酸欠で亡くなっていたそうです。こんな痛ましい事故が起こる場所が閉鎖区画なのです。
酸欠事故発生を防止するためには、定められた準備作業や確認作業を手順通りに実施する必要があります。そして作業に漏れが無いか、確実に実施したかを確認するために「Enclosed Space Entry Permit」というチェックリストが用意されています。この「Enclosed Space Entry Permit」ですが、入るタンク数と同じ枚数を作成する必要があることを知っていますか?
「3タンクの内検を実施するからPermit の書類1枚に3タンク記入しておけば良いだろう。」というのは間違いです。なぜならばタンク内に乗組員が入る場合、各タンクの現場入口にこのチェックリストを掲示しておく必要があるからです。1枚の記録紙に複数のタンクを記載していると、現場の各タンクに掲示していないことになります。
また、船員労働安全衛生規則には作業前及び作業中少なくとも30分に1回、酸素(O2)濃度のチェック及びガス濃度の検知を実施するよう規定されています。この規則の文言は誤解を招く表現です。30分に1回行えば、残りの29分間はO2チェック及びガス検を実施しなくても良いのでしょうか。当然、答えは「No」です。残りの29分間もO2及びガス濃度を連続看視する必要があります。もし残りの29分間を看視していなければ、その29分間は誰も安全を保証することはできません。ですから実際のO2、ガス検知は継続して看視すべきであり、規則の解釈としては、看視は連続で続けるが、報告及び記録は30分に1回でも良いということです。
では、閉鎖区画へ入る場合、酸素濃度は何%以上あれば良いのでしょうか?複数の場所を計測し、全ての場所で20%以上(厳しい規則では21%)ならばOKとしています。本来は区画内全域の酸素濃度を確認し、少しも低下していないことを確認してから入らなければいけません。
仮に少しでも酸素濃度が低下しているならば、何らかの原因によって低下しているのですから、さらに低い19%、18%、そして17%以下の場所もあり得えます。少しぐらい酸素濃度が低下していても18%以上あれば良いと考えるのは間違いです。酸欠状態の場所がどこかにあるかも知れないタンクに誰が好んで入っていくでしょうか?皆さんも酸素濃度が低下しているような閉鎖区画には絶対に入らないようにして下さい。
しかし、現実には巨大な閉鎖区画の端から端まで全ての酸素濃度を計測することができません。そのため、数箇所を計測し、20%(21%)以上であれば、他の計測していない場所も安全であろうと便宜的に判断しているのです。従って、少しでも酸素濃度低下の可能性がある場所では十分な換気を継続し、計測できる場所が20%(21%)以上となってから入域します。なお、実際の空気中の酸素濃度は20.94%で厳密には21.0%はあり得ません。