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横揺れ周期から復原性を確認して転覆を予防する方法

注目

船幅の0.8倍の数字と、実測した横揺れ周期(秒)を比較して、実測値の方が大きければ復原性不足(GM<1.0m)の懸念がある。

学生時代のヨット部活でのニアミス

暑い夏の早朝、学連ヨットレース会場へ向かうレスキュー艇上では、ヨット部員10人余りで船縁に腰掛け涼みながら腹ごしらえや作戦談義を楽しんでいた。やがて針路を変更しようと転舵回頭した際に船体が異常に外方へ傾斜した。すかさず怒鳴った「全員、内側へ移動しろ」という掛け声で部員が一斉に内側に移動したことで重心が下がり、復原性:GMが向上して難を逃れたが、この経験から私は復原性の重要さを痛感させられた。

船舶・浮体の特徴

地球は「水の惑星」と呼ばれるとおり70%が海洋であり、海上輸送は当然に発生発展した。水の浮力と流動性を利用した船舶は地球輸送手段の主役であり、海運は、我国の貿易量の99.8%を担っている。一方、船舶は空と水の境界相で風浪の発生する海上を航行するので、船体動揺で転覆する本質的な危険性があり、常に船体が傾斜するや、直立状態に戻すという復原性の保持が必須とされる。

船舶の力学的定義:①浮力 ②復原性 ③堪航性 の3要素を兼備する浮体

①貨客を搭載できる浮力があっても、②球体のごとく直立状態が不定で、③堪航性(≒安全航行能力)が不全ならば、当然ながら船舶の大小を問わず水上輸送には供用できない。

「船舶安全法」には、船舶の航行要件として、堪航性と人命安全の保持に必要な施設整備を義務化しており、船長始め乗組員はこの法律を遵守し、次のような船舶特有の点検を実施して安全運航に徹している。

乗船前には喫水測得(脚の読取)、乗船したらヒール(横傾斜)・トリム(縦傾斜)と揺れ具合から自船の状態を推察し、出帆時、全係船索がレッコされ船体が自由横揺状態になると横揺周期を実測して計算値と照合する。これは、航海中の習慣にもなって、随時、船窓から眺める水平線の上下動から動揺周期を測って復原性を確認している。

GMは復原性のバロメーター

過去、海技者としてコンテナ船、自動車運搬船等の「復原性の問題」=「GMトラブル」に巡り合った。

コンテナ船における船幅拡張がもたらす横メタセンタ(傾心)上昇の影響

コンテナを甲板上に高く積上げたり、船底タンクのバラスト水を排出する際には船舶の重心位置が上昇するので復原性が低下する。それを見極める簡潔な方法が横揺周期の確認である。

復原性の状態は、復原力が小さい=テンダー(Tender)又はトップヘビー(Top Heavy)、復原力が大きい=スティッフ(Stiff)又はボトムヘビー(Bottom Heavy) と呼ばれ、下図の通り、船舶重心Gと傾心(メタセンタ)Mの距離に関係している。傾心Mとは、傾斜時の浮心Bを通る垂線と船体中心線の交点(小角度傾斜の場合、Mの位置は略一定)と定義され、GとMの両点にそれぞれ作用する船体質量と浮力ベクトルの偶力差が復原性を左右し、その特徴は下図に示す三様態となる。

横揺周期からGMを評価する算式

大型船に備付の復原性関係資料にて、実測の横揺周期に対応するGM値が得られ、次の略式でも評価できる。

\[ 横揺れ周期(秒): Ts=\dfrac{0.8\times B}{\sqrt{GM}} \]

この式は、船体重心を通る前後方向軸周りのモーメントと復原力の関係から横揺周期を導出したもの。

B: 船幅(m)

GM: 重心と傾心(メタセンタ)間の距離(m)

周期: ある位置からスタートして、またスタートした位置に戻るまでの時間

GM:約1.0mであれば通常航海での十分な復原力を得られるとすると上式でGM=1となり、横揺れ周期Tsは船幅Bの0.8倍となる。

したがって、
船幅B=4mの船舶では、Ts = 0.8×4 ≒ 3~4秒
船幅B=30mの船舶では、Ts = 0.8×30 ≒ 24秒
船幅B=60mの船舶では、Ts = 0.8×60 ≒ 48秒
となる。

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