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いくら理不尽だからと言って、官憲と喧嘩しても勝ち目なし

日本人船員には不人気な『外国人税関員』や『外国人パイロット』の話です。

発展途上国の官憲(Customs & Immigration)は振る舞いの悪い人が多いようです。全員とは言いませんが、多くの官憲が当然の権利であるかのように本船に対してタバコや酒を要求してきます。

いくら理不尽だからと言って、彼ら官憲相手に喧嘩しても勝ち目はありません。ゴネられてこちらの得になることは何もありません。こういうときは接待用のウィスキーやタバコをさっさと渡してお引取り願うことです。当然過度に与える必要はありません。たくさん与え過ぎても益々付け上がるだけですから、上手く交渉して最低限のタバコやウィスキーを彼らに与えて、さっさとお帰り頂いてトラブルになることを防止すべきです。

船長が頑なに税関やパイロットへウィスキーやタバコの供与を拒んだためにトラブルとなった事例が過去にたくさんあります。タバコや酒が手に入らないとなると、彼らはゴネ出し、「今から船内検査を実施する」と言い出して、出港が数時間も遅れたという事例を何度もこの目で見てきました。

彼らの常とう手段です。「郷に入っては郷に従え(When in Rome, do as the Romans do.)」ではありませんが、貧しい彼らを救済してあげるのだという寛大な気持ちで大目に見てやって下さい。自分のポケットマネーならいざ知らず、船の接待用ボンド品を与えるのですから、意地になって喧嘩に負けたような気分にならないことです。

港によっては、「たかり税関」がボンドストアを調べ始めます。提出したボンドストア・リストの数字とビール1缶でも数量が異なれば、それこそ鬼の首を取ったように騒ぎ出し、「さあこの落とし前をどうつけるのだ」と、本船に文句を言って、結局自分への見返りを要求してきます。こちらもそれを百も承知で彼の小芝居に付き合ってあげて、「たかり税関」がウィスキーやタバコをねだりやすくしてあげるのです。決して、「好きなだけお酒をあげるからもう小芝居はやめて」とは言いません。これも船舶運航を円滑にするための船長業務の一つと思ってぐっと我慢のしどころです。

ちなみにタバコ(Tobacco)はポルトガル語です。習ったと思いますが、英語では紙巻タバコはCigarette、葉巻タバコはCigar、パイプ用タバコはTobaccoです。原産は南アメリカでスペイン人によりヨーロッパに伝えられ、はじめは観賞用・薬用に栽培されていたそうです。そして日本へは室町末期にポルトガル人から伝えられました。

普通のパイロットは官憲のように物品を要求しませんが、スエズ運河のパイロットだけは当然のようにタバコを2、3カートン要求します。スエズ運河をスムーズに通狭するためには少々の出費はやむを得ません。ぐっと我慢して彼らにタバコを与えます。昔、スエズ運河のパイロットが「サクマ、サクマが欲しい」と言ってきました。サクマとは何のことか直ぐには理解できませんでした。実はサクマとは缶入りの「サクマドロップス」のことでした。それを知って船橋にいた乗組員は大笑いです。恐らくどこかの日本船が彼らにサクマドロップを与えたのでしょう。彼らの間では有名なお菓子となっていました。

また、あるスエズパイロットが肩がこるのでサロンパスが欲しいと言いました。仕方なく病室からサロンパスを持ってきて渡すと、「これとは違う。」というではないですか。彼が要求したのは貼るタイプのサロンパスではなく、エアーサロンパスでした。私達は唖然としました。残念ながら本船にはエアー式のサロンパスを積んでいなかったため、丁寧にお断りしました。

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