船では重要な役割を担っている『旗』の話です。
最近、多く目につくのが、「国旗」と「商船旗」を区別せずに、いや、区別できずに掲げている船が多いことです。寄港国に敬意を表するために、寄港する港で掲げるのは訪れた国の「国旗(National Flag)」です。自国の商船が掲げる自国の旗が「商船旗(Merchant Flag)」です。

以前オーストラリアへ入港したとき、本船のマストに上写真のような見慣れない真っ赤なオーストラリアの商船旗が揚がっていました。日本籍船がなぜオーストラリアの商船旗を掲げているのでしょうか?日本船がオーストラリアの商船旗を揚げて良いのでしょうか?
本船が所持している旗をよく調べて見ると、シンガポール等数カ国の旗が国旗でなく、商船旗でした。おそらく船用品で注文するときに「National Flag」と「Merchant Flag」を間違って注文したのだと思います。皆さんも国旗を注文するときは注意して下さい。
そして決して相手国の商船旗を掲げないよう注意して下さい。訪れた国に対して失礼がないように状態の良い、きれいな国旗を掲げて下さい。ときどき下写真のように、ボロボロになって半分千切れそうになった国旗を平気で掲げている船があります。これは相手国に対して大変失礼なことです。例外的な話として、Bahamas船籍船では船尾に掲げる旗は国旗でなく、Bahamasの商船旗を掲げるように規定されています。

ちなみに、私達は何気なく旗のことを「フラッグ(Flag)」と呼んでいますが、旗や紋章を研究する分野(学問)では陸上で使う旗を「フラッグ(Flag)」と呼び、海上で使う旗のことは「エンサイン(Ensign)」と呼んでいます。私達は研究者ではないので、船の旗をフラッグと呼んで問題ありません。英語の辞書でEnsignを引くと、軍旗または軍艦旗と記されています。つまり、旗は大きく以下の6種類に分類することができます。
市民用陸上国旗
政府用陸上国旗
軍隊用陸上国旗
市民用海上国旗(商船旗)
政府用海上国旗
軍隊用海上国旗
旗にまつわるこんな経験もあります。ある船で補油のためジブラルタルへ寄港しました。ジブラルタルといえば地中海の入口にあり、モロッコの対面に位置する非常に綺麗な港です。当然ジブラルタル港はスペイン国だと思ってスペインの国旗を掲げて入港しました。しかし、なんとジブラルタルはイギリス領だったのです。地中海にイギリス領があるとは、恥ずかしながら知りませんでした。そして、掲げていたスペインの旗をイギリスの旗に取替ようとしましたが、イギリスの旗を所持していません。
あわてて代理店に イギリス国旗(Union Jack)を手配しました。知らないこと自体、恥ずかしいことかも知れませんが、知識や経験がない場合はこんなものです。独立国でない統治領は世界中にたくさんあるはずです。統治領の港へ入港する機会はあまりないとは思いますが、もし統治領に入港する場合は要注意です。ちなみに英国国旗をUnion Jackと呼びますが、「Jack」とは船首に掲げる旗のことを意味します。