ブレーキ機構の不具合や操作ミスによって大事故につながることが多い『Windlass』の話です。
ドック工事でWindlassのBrake Liningの交換やブレーキ機構の修理を実施した場合、ドックを出港して最初に投錨するときは細心の注意を払い十分に気をつけて下さい。
私はC/Oのときに一度、大変痛い経験をしました。ドックでWindlass工事が終わると、復旧後に必ずブレーキ調整を行います。ドック作業員が適正なブレーキ力になるよう計測しながら調整すれば良いのですが、多くは目の子勘定で行っているはずです。そのため、ブレーキが甘い状態になっていることが多いのです。ブレーキを締めてもブレーキが効かない状態です。
私が経験したトラブルのときも、ドックでWindlassのBrake Liningの交換を行い、その後ブレーキ調整をドック作業員が行いました。おそらく作業員はブレーキ機構のTorsion Barを適当に巻き締めただけだと思います。あるいは、何もさわっていないのかも知れません。そして、ドック出港後、初めて投錨するとき、船長から「ドック後はブレーキ調整が不十分な場合があるので、気を付けた方がいいよ。」とアドバイスされました。
せっかく船長からアドバイスを頂いていたにもかかわらず、確認も心構えもせずに最初の錨地で投錨したときにトラブルが発生しました。船長の懸念した通り、ブレーキの効きが不十分で止まらずにズルズルとBitter Endまで錨鎖が全部出てしまいました。幸いブレーキがある程度効きながらの走出なので、Bitter Endで止まって根付け破損による錨鎖水没事故は免れました。やはり、ドックでWindlass整備を実施した場合は、ブレーキライニングの締め付け調整をしっかりやらなければいけません。
Windlassのブレーキが手動ではなく、油圧ブレーキを装備している船があります。大型船で手動ブレーキの場合は、大きなハンドルに2、3人が付いて力一杯で回して何とか操作できる状態ですが、油圧ブレーキだと力もいらず遠隔操作が可能で、非常に便利です。しかし、意外とその構造や原理を理解していない人が多いようです。
私はよく若手航海士に「Windlassブレーキのあの大きな油圧シリンダーの内部に何が入っている?」と尋ねます。答えは「バネ(Spring)」です。バネが入っていることを知っている人はおそらく、その作動原理を理解している人でしょう。通常、ブレーキ“ON”のときは、バネの力によりピストンが押し下げられており、ブレーキが効く方向に力が掛かっています。
そして、ブレーキを“OFF”にすると、バネの力に逆らってピストンが伸び、ブレーキが緩む方向にブレーキレバーが動きます。もし、乗船している船のWindlassが油圧ブレーキを装備しているなら、現場でブレーキ機構各部の動きを指で順を追って確認してみれば良いでしょう。
また、油圧シリンダーの近くにあるぐるぐる回す操作ハンドルは直接ブレーキライニングに力を加えるためのハンドルではなく、油圧シリンダーを介して力が伝わる構造となっています。形状は手動ブレーキと同じように見えますが、油圧ブレーキシステムに備わっている手動ブレーキハンドルは単純な操作・機能でないことを理解して下さい。