パイロットが使用するための梯子、『Pilot Ladder』の話です。
皆さんは「メカニカル・パイロット・ホイスト(Mechanical Pilot Hoist)」という水先人用昇降機を見たり、聞いたりしたことがありますか?私はパイロット・ホイストを実際には見たことがありませんが、移動パイロットラダー式とプラットフォーム式の二種類があり、過去にこのパイロット・ホイストを使用した乗船時に事故が多発したために、メカニカル・パイロット・ホイストの使用は2012年7月以降、SOLASにおいて全面禁止となりました。
国際パイロット協会(IMPA)は水先人用乗下船設備とその運用において遵守すべきルールや提案事項を図示したポスターを作成し、IMOから承認を受けました。それを日本水先人連合会が日本語訳を付して印刷し、各船橋に掲示されるよう配布しました。ちなみに、縄梯子であるJacob’s Ladderという言葉の由来は、聖書からきており「ヤコブのはしご(ヤコブが夢で見た天まで届くはしご)」のことだそうです。
日本水先人連合会はもちろん国際パイロット協会(IMPA: International Maritime Pilots’ Association)の一員です。SOLAS条約に規定されているパイロット関連事項の規則は強制力がありますが、日本水先人連合会は強制力のある法律を作ることができません。そのため、日本水先人連合会が定めるルールはあくまでも勧告です。しかし、実際には条約、法律、勧告の区別なく、パイロット乗下船の安全を確保するために全ての要求事項を遵守しなればいけません。
船長時代、乗船してきたパイロットに指摘されるまでPilot Ladderの不具合に気付かず、ドキッとさせられたトラブルがありました。Pilot Ladderの各Stepを挟み込んで固定するための楔(くさび) 又は木片、いわゆるステップ固定ピースが緩んでしまっており、Stepがガクガク動く状態となっていたのです。あまり日頃チェックしないところですが、やはり人命に関わる設備ですから、定期的に厳しいチェックが必要です。
ちなみに、このステップ固定ピースが必要であるPilot Ladderと不要なPilot Ladderの2種類があることを知っていますか?旧型のPilot Ladderはステップの厚さが十分あるため固定ピースを使用していませんでした。しかし、最近の新型Pilot Ladderではステップの厚さが十分でないため木片を挿入する必要があるのです。現時点では、どこの港でも旧型・新型どちらのPilot Ladderを使用しても問題ありません。
パイロットの乗下船で使用するロープをマンロープと呼びます。主に下船時に使用しますが、時化のなかでパイロットラダー(ジャコブラダー)からパイロットボートに乗り移る際には非常に有効です。年老いたパイロットが2本のマンロープでお猿さんのようにボートに飛び移る姿を見ると、年老いてもさすがは元船長さん、元気だなあとつくづく感心します。もちろんマンロープを使用しないパイロットも多く、使用しない場合は邪魔になりますので、パイロットが設置を要請した場合のみ、マンロープを準備するようにします。ちなみにマンロープの直径は28mm以上、32mm以下という規定がありますが、握りやすいように太過ぎず細過ぎず28mm丁度の径のロープが望ましいとされています。