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航海当直 ア・ラ・カルト(靴とサンダル・Q/Mの技量・パイロットランプ)

阪口泰弘阪口泰弘

言うまでもなく、『航海当直』は航海士にとって基本中の基本の職務です。それ相応に出来て当たり前、もしも、信用に足るだけの航海当直の技量を発揮できなければ、船長以下乗組員全員から航海士失格の烙印を押されてしまいます。その航海士の「Basic Skill」ともいえる航海当直について焦点を当て、いくつかの初歩的な話を紹介します。

靴とサンダル

外国人航海士に共通するのが、靴を履いて航海当直するという意識が希薄なことです。平気でサンダルを履いて船橋に上がってくる外国人航海士が多くいます。私達日本人航海士は練習船の士官や社船の先輩方に「いざという時に草履で現場まで走っていけるか?航海士たるものは、火災・事故その他非常事態発生の際には即座に対応する必要がある。常に靴を履いておくこと。草履で当直とは何事か!船橋という神聖な職場を何と心得ているのか!」という教育を受けてきているので、船橋当直するときは必ず靴を履いています。

外国人航海士は誰からも指導されないのでしょうか?何で靴を履く必要があるのか、個人の自由だろう、草履で何が悪いの?といつも文句ありげです。実際に靴を履いていてよかったという場面に遭遇することはないかも知れません。しかし、日本人は精神論としての気構えや気配りを大切にしているので、靴を履きなさいと口すっぱく外国人に指導します。これを素直に受け入れてくれない外国人が多いのは困ったものです。辛抱強く、繰り返し繰り返し、日本人航海士の良き伝統や熱い思いを伝えていきましょう。

Q/Mの技量

出港して操舵をHand SteeringからAuto Pilotに切り替えるときにQ/Mの技量を見極めるチェックポイントがあります。船長や航海士がQ/Mに「Change to Auto Pilot」とオーダーすると、操舵スタンドの切替えスイッチをAutoに切替えて、コンパスや舵角指示器を見もせずに直ぐに操舵スタンドを離れるQ/Mがときどきいます。当然、Q/M失格です。

基本的なことを教わっていないのか、忘れているのか、このようなQ/Mは船長の信用をなくしてしまいます。Auto Pilotに切り替えてしばらく、針路の整定具合や舵の動きを確認するという基本ができているかどうかで、そのQ/Mの技量の良し悪しを判断できるといっても過言ではありません。

パイロットランプ

外国人航海士にときどき驚かされるのが、船橋コンソールや操舵機のパイロットランプが切れたら、自分で交換せずに、何のためらいもなく、直ぐに機関士を呼んで交換してもらうことです。たった一つの豆球を換えるために機関士を呼ぶことは、日本人航海士では考えられないことです。予備のパイロットランプを船橋近くに保管しているはずです。それをわざわざ機関士を呼ぶ理由の一つは明確な職務分担です。

外国人職員は航海士の仕事はオペレーター、電気や機械に関わる整備・修理の仕事は機関士と明確にして線引きしているのです。ですから、航海士が勝手に触って壊した場合の責任問題を真っ先に考えるのです。ある欧米人航海士がきっぱりと言いました。「私達航海士はオペレーター、直すのはエンジニアーである」

しかし、私達航海士はオペレーターだけのはずがありません。船橋の航海計器や航海灯、汽笛等機器の構造や原理を理解してその整備・修理をある程度できる技量を持つべきです。もちろん航海士の技量の限界を超える作業は機関士に依頼せざるを得ません。もう一つ外国人航海士が自分で交換作業をしない理由として、外国人全乗船ではエレクトリシャン(Electrician)が乗船している船が多いからではないでしょうか。ちょっとした電気関係の不具合が発生した場合、気軽にエレクトリシャンを呼んで修理してもらうのが当たり前になっているのだと思います。

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